チタンはなぜ高い?製錬・歩留まり・加工で分解
チタンはなぜ高い?製錬・歩留まり・加工で分解
チタンは、地殻中にクラーク数0.46%で存在し、アルミニウム・鉄・マグネシウムに次ぐ豊富さを持ちながら、見積では鉄やステンレスより桁違いに高くなる金属である。既知鉱区の推定埋蔵量は約100億トンに達するのに、実務では「レアメタルだから高い」という説明だけでは社内で通らない。
チタンは、地殻中にクラーク数0.46%で存在し、アルミニウム・鉄・マグネシウムに次ぐ豊富さを持ちながら、見積では鉄やステンレスより桁違いに高くなる金属である。
既知鉱区の推定埋蔵量は約100億トンに達するのに、実務では「レアメタルだから高い」という説明だけでは社内で通らない。
理由は資源の希少性ではなく工程構造にあり、クロール法の製錬、buy-to-fly比で膨らむ歩留まり損失、そして難削材ゆえの加工負荷が、価格を三層で押し上げている。
特に航空部品ではbuy-to-fly比10:1〜20:1が珍しくなく、素材単価の交渉よりも形状決定のほうがコストを左右するため、本記事ではどの工程で何倍になるのかを順に追っていく。
チタン価格の全体像:どの段階でいくらになるのか
チタンは「地面に少ないから高い」のではなく、鉱石から製品になるまでの工程が長く、各段階で別のコストが積み上がるために高く見えます。
スポンジ、インゴット、ミル製品、加工品という4段階で価格を追うと、どの段階で上がったのかが見え、見積の内訳も読み解きやすくなります。
しかも価格差の主因は資源の希少性ではなく、製錬、歩留まり、加工難の3層にあります。
スポンジ・インゴット・ミル製品・加工品の4段階で価格を追う
チタン価格は、スポンジ約5.7〜6.1ドル/kgからインゴット約6.7〜6.9ドル/kgへと、溶解だけで1割強の段差がつきます。
さらに純チタン2種の棒材は約11ドル/kg、医療用Ti-6Al-4V ELIの鍛造品は約95ドル/kgまで跳ね上がり、同じ金属でも約8.6倍の開きが出ます。
ここで見落としてはいけないのは、金属そのものの価値が急に変わったわけではなく、溶解回数、品質保証、形状加工が段階ごとに加算されている点です。
調達の現場では、kg単価の値下げ交渉に議論が集中していても、部品単価に占める素材費を分解すると、加工費と歩留まり損失が支配的だったという場面が少なくありません。
比強度で換算し直すと、kg単価では数倍高いチタンが、必要断面積を縮小できることで部品単位の差が想定より小さくなることもあります。
だからこそ、原材料の値札ではなく、どの工程で何が乗っているかを見る必要があります。
鉄・ステンレス・アルミと並べたときのkg単価レンジ
鉄・ステンレス・アルミと並べると、チタンのkg単価は際立って高く見えます。
ただし、素材選定はkg単価の大小だけでは決まりません。
強度が足りない素材を厚肉化して使えば、軽い材料でも断面積が増え、結果として部品単価が逆転することがあるからです。
素材比較では、比強度で見直すと判断が変わります。
鋼、ステンレス、アルミに比べてチタンは高価でも、必要強度を満たす断面を小さくできるなら、部品としてのコスト差は縮まります。
調達部門が「素材費だけ高い」と感じた案件でも、設計側が断面積と加工負荷を含めて見直すと、採用判断はまったく違う景色になるでしょう。
チタンの高価格は、素材名ではなく要求仕様の厳しさで決まる面が大きいです。
価格を決めるのは製錬・歩留まり・加工難の3層
チタンの価格構造は、製錬、歩留まり、加工難の3層に整理すると理解しやすくなります。
第1層の製錬では、クロール法が四塩化チタンへの変換とマグネシウム還元の2段階を要し、100〜200kWh/kgというエネルギー原単位が鋼の20〜30kWh/kgの約5倍に達します。
原料そのものより工程エネルギーが効くうえ、約1,000℃で数日単位のバッチ運転になるため、規模を拡大してもコストが下がりにくいのです。
第2層の歩留まりと第3層の加工難は、実務上のインパクトが最も大きい層です。
航空部品ではbuy-to-fly比が10:1〜20:1、形状によっては15:1〜30:1に達し、17:1の部品では素材の94%が切りくずになります。
切りくずはクーラント汚染や異物混入で高グレードに戻しにくく、熱伝導率の低さやヤング率の低さも切削条件を厳しくします。
資源の希少性は主因ではなく、設計と調達が実際に動かせるのは歩留まりと加工難の2つだと押さえると、打ち手は見えやすいです。
製錬層では水素利用の新製錬法が粉末30ドル/kgを目標にしており、クロール法由来アトマイズ粉の約200ドル/kgとの差が示すように、工程の置き換え余地があります。
歩留まり層ではニアネットシェイプ化が効き、WAAMならbuy-to-fly比2:1未満、材料投入8割減も狙えます。
形状要件を少し緩めるだけでも、加工難の負担は下がるので、ここはおすすめです。
資源は豊富なのに高い:鉱石と金属チタンの断絶
チタンは希少だから高いのではなく、地殻中に広く存在していても金属にするまでの工程が重いから高くなります。
資源の豊富さだけを見れば、クラーク数0.46%と既知鉱区の推定埋蔵量約100億トンは、供給不安の説明としては弱い数字です。
実際に価格を押し上げているのは、鉱石を金属へ変える製錬と、その後の溶解・加工にかかる手間だと考えるほうが筋が通ります。
クラーク数0.46%・埋蔵量100億トンという資源の豊富さ
チタンのクラーク数は0.46%で、アルミニウム・鉄・マグネシウムに次いで地殻に多い金属です。
既知鉱区の推定埋蔵量も約100億トンに達するため、「レアメタルだから材料そのものが足りない」という見立ては当たりません。
実際に代替材の検討が進んでいた案件でも、埋蔵量データを確認した瞬間に論点が変わりました。
資源制約ではなく、製錬能力と設備の制約を見に行くべきだと分かったからです。
レアメタルに分類される理由も、存在量ではなく製錬の難しさにあります。
つまり、地殻にある量は多くても、使える形にまで落とし込む工程が高くつく。
ここを取り違えると、調達や代替の議論がずれます。
需要が逼迫しているのではなく、工程が重いので価格が下がりにくい、という構図です。
ルチルとイルメナイト、鉱石の9割が顔料に向かう理由
主要鉱石はルチルとイルメナイトです。
ルチルはTiO2単体で、比較的扱いやすい高品位原料として位置づけられます。
イルメナイトはTiとFeの複合酸化物で、産地によって塊状型と漂砂型に分かれ、品位の幅も広い。
原料の質がそのまま製錬コストに響くため、低品位鉱を単独で使うより、高品位原料と混ぜて処理する発想が実務的になります。
ここで見落としやすいのが、鉱石市場の主役が金属チタンではないことです。
世界の鉱石生産量の90%以上は酸化チタンの顔料向けで、金属チタン向けは5%程度にとどまります。
塗料や化粧品の白色顔料としての需要が大きく、金属用途は少数派です。
つまり、鉱石の需給を支配しているのは金属そのものではなく顔料用途であり、金属チタンは製錬設備の稼働構造に左右されやすい立場に置かれています。
鉱石の9割以上が顔料向けと知ると、金属チタンの値段がなぜ規模の利益だけでは下がりにくいのか、腑に落ちます。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 主要鉱石 | ルチル、イルメナイト |
| ルチルの特徴 | TiO2単体で高品位原料 |
| イルメナイトの特徴 | TiとFeの複合酸化物 |
| 生産量の用途 | 90%以上が酸化チタン顔料向け |
| 金属チタン向け | 5%程度 |
酸素と結びつきやすい性質が製錬の壁になる
価格を決めているのは、鉱石から金属を取り出す工程です。
チタンは酸素との親和性が極めて高く、酸化物として安定しているため、酸素を引き剥がすだけで大きなエネルギーと特殊な還元剤が要ります。
クロール法で四塩化チタンにしてからマグネシウムで還元するのも、この化学的な壁を越えるためです。
資源が多くても、化学的に取り出しにくければ、金属としては高価にならざるを得ません。
この性質は加工段階でも続きます。
高温では酸素を吸収して脆化するため、溶解や熱処理には真空や不活性雰囲気が必要です。
現場で「レアメタルだから供給が不安だ」として代替材を検討していた案件でも、実際には製錬能力のほうがボトルネックでした。
設備、雰囲気制御、溶解回数、歩留まりまで含めてコストが積み上がるので、資源の話がそのまま設備コストの話に直結するのです。
製錬コストの正体:クロール法のバッチ生産とエネルギー
クロール法の製錬コストは、原料が高いから重くなるのではなく、工程そのものが多段で電力を食う構造にある。
鉱石はまず四塩化チタンへ変えられ、つづいてマグネシウムで還元されてスポンジチタンになる。
酸化物から直接取り出しにくい金属であるため、この迂回が避けられず、エネルギー原単位はチタン1kgあたり100〜200kWhに達する。
鋼の20〜30kWh/kgと比べれば約5倍で、電力価格の上昇がそのまま素材価格に跳ね返る理由がここにある。
鉱石を四塩化チタンに変えてからマグネシウムで還元する2段階
クロール法は、鉱石をいきなり金属に戻すのではなく、いったん四塩化チタンに変えてから還元する2段階工程です。
酸化物のままでは扱いにくく、熱力学的にもそのままでは還元しづらいため、塩化物という中間体を経由する設計になっています。
工程数が増えれば、そのぶん加熱、分離、搬送、設備保守が積み上がり、コストの底が厚くなる。
製錬コストの正体は、この「遠回りをしないと金属にならない」という素材側の制約にあります。
原料費だけを見れば、四塩化チタンは約4ドル/kg-Ti、マグネシウムは工程内リサイクルを経て約1.2ドル/kg-Ti程度です。
つまり、原料そのものが突出して高価だからチタンが高いのではありません。
むしろ、製品価格を押し上げている主因は、原料を金属に変えるためのエネルギーと、その高温設備を止めずに維持する稼働コストにあります。
調達の現場で原料単価だけを見積もると、後で帳尻が合わなくなるのはこのためです。
電力の7割を占めるマグネシウム電解という律速
クロール法の消費電力の内訳では、塩化マグネシウムの電解還元が全工程の70%以上を占めます。
還元剤として使ったマグネシウムを工程内で再生するには電解が不可欠で、ここを省くと循環が成立しません。
したがって、コスト削減の焦点は単純な熱源の見直しではなく、この電解工程をどれだけ効率よく回せるかに集約されます。
電力価格が上がると値上げ通知が届きやすいのも、構造を見れば納得しやすいでしょう。
実際、電力価格の上昇局面でチタン素材の値上げ通知を受けたとき、エネルギー原単位が鋼の約5倍であることを踏まえると、価格転嫁の幅は構造的に説明できました。
電気代の変化が、そのまま製錬コストの基礎体力を揺らすからです。
表面上は仕入れ単価の改定に見えても、裏側では電解の負担がじわじわ効いている。
ここを見誤ると、値上げの理由を一過性の市況変動として処理してしまいがちです。
バッチプロセスゆえに効かないスケールメリット
還元反応は約1,000℃の反応容器の中で、数日単位のバッチとして進みます。
連続生産にしにくいため、設備を大きくしても稼働率が素直には上がりません。
量を増やせば単価が下がるはずだ、という発想でコスト計画を組むと、ここで齟齬が出ます。
チタン製錬では、装置の大型化よりも、止めずに回せる時間をどこまで確保できるかのほうが効きます。
この点は、高炉のような連続プロセスと対照的です。
連続で流せる工程なら、投入と排出が滑らかにつながり、スケールメリットが効きやすい。
だがクロール法では、バッチごとの加熱、冷却、取り出し、再準備が避けられず、設備が待機している時間が残ります。
量産効果を前提にした検討が崩れたのは、チタン製錬が「大きくすれば安くなる」型ではなかったからです。
溶解と展伸で積み上がる:スポンジからミル製品へ
スポンジチタンは、圧縮成形して電極にし、真空アーク再溶解(VAR)でインゴットにして初めて部材の入口に立てます。
ここで価格がいきなり上がるのは、単に「溶かす」からではなく、酸素や窒素を避けながら均質な塊に作り替える工程そのものが重いからです。
材料の段階で見える差より、製錬後の溶解と展伸で生まれる差のほうが、グレード選定の実態をよく表しています。
VARで2回以上溶かし直す品質要求
チタンの融点は約1,668℃で、しかも高温になるほど酸素と窒素を吸収して脆化しやすいので、普通の溶解炉では対応しにくいです。
水冷銅るつぼと真空環境を備えた専用炉が必要になるのは、溶けた金属を汚さず、熱を逃がしながら形を保つためであり、設備そのものが高価になります。
スポンジを圧縮成形した電極をVARで複数回溶かし直すのは、偏析と介在物を減らして、航空・宇宙・医療で求められる均質性に近づけるためです。
溶かし直す回数がそのまま稼働コストになるので、グレード差の正体は品質保証工程の厚みだと見えてきます。
スポンジからインゴット、板・棒への価格段差
スポンジチタンはそのままでは部材にならず、VARを通してインゴットにするだけで約6ドル/kgから約6.7〜6.9ドル/kgへ段差がつきます。
さらにそこから板・棒・線へ展伸する段階では、熱間加工温度域の管理と表面の酸化スケール除去が加わり、歩留まりと加工時間が効いてきます。
純チタン2種の棒材が約11ドル/kg、医療用Ti-6Al-4V ELIの鍛造品が約95ドル/kgという開きは、素材の化学成分だけでは説明できません。
加工を重ねるたびに、専用設備、検査、再処理、歩留まり損が積み上がるからです。
図面に医療グレード相当の材料指定が残っていた一般産業用途の部品を見直し、要求特性から再定義したところ、素材費が大きく下がった経験もこの構造とつながります。
航空・医療グレードだけが高い理由
航空・医療グレードが高いのは、強度が高いからという単純な話ではありません。
むしろ、溶解回数、真空管理、介在物除去、展伸時の温度管理、表面仕上げ、検査の密度まで含めた工程全体を買っているから高いのです。
VARの回数がグレード要求で決まると分かると、材料規格の選定は設備稼働コストの選定と同義だと理解が変わります。
航空・医療グレードの要求を持たない用途で高グレードを選べば、必要のない溶解回数と検査コストを抱え込むことになるため、要求特性の棚卸しそのものがコストダウンになります。
歩留まりという増幅器:buy-to-fly比が材料費を10倍にする
buy-to-fly比は、購入した素材重量に対して最終的に部品として残る重量がどれだけ少ないかを表す指標で、航空部品では一般に10:1〜20:1、形状によっては15:1〜30:1に達します。
10:1なら10kgの素材から1kgしか残らず、見かけ上の素材単価がそのまま10倍に跳ね上がる構造です。
削る量が増えるほど材料費だけでなく加工時間も膨らむため、ここがコスト構造の第3層にして最大の増幅要因になります。
buy-to-fly比の読み方と航空部品の実勢値
17:1の部品では、素材の94%が切りくずになります。
粗取りで大半の時間を使うということは、切削機の稼働が長いほど人件費、電力、工具摩耗、段取りの負担まで同時に積み上がるということです。
大型航空機メーカーで1日50トンの素材を購入し、製品として残るのが4.5トン程度という規模感になるのはそのためで、素材のkg単価を数%下げるより、buy-to-fly比を1段階改善するほうが効きます。
素材の値下げ交渉に半年を費やした案件でも、同じ部品をニアネットシェイプ素形材に切り替える案のほうが、交渉で得られた削減幅をはるかに上回る見込みになりました。
切りくずが素材に戻らない:汚染と異物混入という壁
切りくずは、単純に溶かして元の素材へ戻せるものではありません。
クーラントが付着し、切削粉や微細な異物も混ざるため、航空・医療グレードが求める厳格な純度に合わせるには追加の精製コストがかかります。
売却すれば材料費を回収できると見込んだ切りくずが、クーラント汚染のせいで想定価格では引き取られず、歩留まり損失がそのままコストとして残った場面は象徴的でした。
つまり、削った分は捨て値になるのではなく、汚れた状態でしか戻せないから安くなるのです。
ニアネットシェイプ・精密鋳造・積層造形という選択肢
打ち手は、そもそも削る前提を減らすことです。
精密鋳造や鍛造で最終形状に近づければ、余分な削り代を最初から小さくできますし、ワイヤアーク積層造形(WAAM)を使えばbuy-to-fly比を2:1未満まで下げられ、材料投入量を8割以上削減できます。
設計者の視点では、削り出し前提の形状そのものがコストドライバーであり、素形材の選択を設計初期に入れるだけで、材料費と加工費の両方に効く余地が生まれます。
現場ではこの段階の見直しが、後工程の詰めよりおすすめです。
加工難が生む第4のコスト:工具寿命と加工時間
チタンは加工のたびに熱と手間が重なりやすく、工具寿命の短さがそのまま停止時間と加工費に跳ね返ります。
鋼やアルミと同じ感覚で条件を上げると、刃先温度の上昇で工具が先に消耗し、かえって見積工数を押し上げるのです。
加工の難しさは材料単価ではなく、削る過程で決まります。
熱が逃げない材料特性と工具摩耗の因果
チタンは熱伝導率が低く、切削で生まれた熱が被削材側へ逃げにくい材料です。
その熱は刃先付近に滞留しやすく、超硬工具の摩耗を早めます。
工具費そのものより、交換のたびに機械が止まり、段取りをやり直す時間が効いてきます。
Ti-6Al-4Vの旋削で超硬工具を使う場合、切削速度40〜60m/min、送り0.1〜0.2mm/revが一般的な推奨範囲になるのは、ここに理由があります。
現場で鋼と同じ条件のまま削ろうとすると、切れ味が持たずに短時間で摩耗が進み、条件を推奨範囲まで落とした途端に加工時間が延びる、という失敗が起こりやすいです。
さらに切削速度を80m/min以上に上げると刃先温度が800℃を超え、工具寿命が急激に低下します。
熱を持ち去るには高圧クーラント(7MPa以上)の湿式加工が推奨されますが、設備要件も上がるため、加工費は工具代だけでは説明できません。
凝着・構成刃先が粗加工と仕上げを二度手間にする
チタンは工具への凝着が起きやすく、刃先に構成刃先が生じると、切削面が荒れやすくなります。
寸法を追い込む仕上げ工程でこの状態が出ると、表面粗さだけでなく精度そのものが不安定になります。
だからこそ、粗加工と仕上げ加工を分ける運用が必要になり、工程数が増えて手間と時間が積み上がるわけです。
この分離は、単なる品質確保のための保険ではありません。
粗加工であえて無理をしないことで仕上げ代を安定させ、仕上げ側で刃先状態を整えて寸法を決めるという考え方です。
加工現場では、凝着が強いまま一発で仕上げようとして失敗し、やり直しで工程が増えるケースが少なくありません。
おすすめです、最初から二工程で組む発想に切り替えましょう。
剛性の低さが治具・工程分割のコストを呼ぶ
チタンはヤング率が鋼の約半分と低く、薄肉部では切削抵抗だけで被削材が撓みます。
加工機の精度が足りないというより、部品側が負けてしまうのです。
その結果、寸法が出ず、専用治具の製作や工程分割による切込み量の抑制が必要になります。
ここで発生するのは治具費だけではなく、段取り替えと再固定の時間であり、見えにくいコストほど積み上がります。
薄肉形状の部品で撓みによる寸法不良が続いたとき、工程を分けて切込みを抑える対応に切り替えることがあります。
すると不良は減っても、加工時間と治具費は増える。
まさにその典型です。
DFMの観点では、深掘り形状、薄肉部、鋭角の内隅を要求性能の範囲で緩和できるだけで、加工時間と治具コストの両方を削減できます。
加工費は設計段階でほぼ決まっているのです。
価格を下げる打ち手:新製錬法と設計側でできること
チタンの価格は資源の希少性だけで決まっているわけではなく、工程をまたぐ構造の帰結として高止まりしています。
だからこそ、製錬層では新しい還元・電解プロセスの実用化を待ちながらも、設計側は今日から削減余地を動かせます。
粉末価格、buy-to-fly比、リサイクルの回し方を分けて見ると、どこに効くのかがはっきりします。
クロール法を置き換える製錬プロセスの現在地
製錬層の打ち手は、すでに研究段階を超えて業界レベルで進行しています。
水素を活用してチタンと酸素の結合を弱め、より低い酸素濃度で金属を得る新製錬法では、粉末で30ドル/kgという目標が掲げられています。
クロール法インゴット由来のアトマイズ粉の約200ドル/kgと比べると、目標値と現状値の開きは大きく、粉末の入口価格そのものを変えようとしている点に意味があります。
もう一つの流れが、溶融塩中で酸化チタンを直接電解還元する手法です。
四塩化チタン化の工程を経ずに金属を得る方向で研究が進んでおり、バッチ性とエネルギー原単位という律速を原理的に外せる可能性があります。
もっとも、量産規模での実装には時間を要します。
工程のつなぎ替えは材料置換より遅く、設備投資と品質保証の壁も厚いからです。
粉末と積層造形がコスト構造を組み替える
粉末価格が下がると、積層造形の経済性は別物になります。
粉末は単なる中間材ではなく、製錬コストの変化を下流へ伝える媒介であり、buy-to-fly比の改善と製錬コストの低下が同時に効きます。
製錬層と歩留まり層は独立ではなく、粉末を介して連動している。
この見方に切り替えると、素材のkg単価だけを見ていては打ち手が見えない理由も整理できます。
現場で粉末価格の低下見通しを前提に積層造形への切り替えを検討したときも、現行価格ではまだ採算が合いませんでした。
そこで、buy-to-fly比の大きい部品に絞って適用する判断に落ち着きました。
量産の全面置換ではなく、削り代が大きい部品から入るほうが、粉末の高さを吸収しやすいからです。
おすすめは、まず材料費ではなく総コストで見て、工程短縮まで含めて判断することです。
ℹ️ Note
リサイクル・リバート材は現実的な打ち手ですが、汚染と純度管理が前提になります。工程内で発生する清浄な切りくずを分別回収できるかどうかが、活用可否を分けます。
現場でも、工程内の切りくず分別を徹底していなかったために、リバート材としての活用が難しくなったことがありました。
順序は逆に見えて、まず分別回収の体制づくりから着手する必要がありました。
混入源を切れないまま粉に戻しても、要求純度を満たしにくいからです。
設備より先に、回収ルールと保管区分を整えましょう。
設計・調達が今日から動かせる優先順位
設計・調達が今日から動かせる優先順位は明確です。
第一にbuy-to-fly比の把握と素形材の見直し、第二に過剰グレードの排除、第三に加工時間を押し上げる形状要件の緩和です。
製錬コストは待つしかありませんが、残る2層は自社の判断で動きます。
ここはすぐに手を付けてみてください。
特に重要なのは、要求性能に対して材料グレードを上げすぎていないかを点検することです。
調達現場では、安心感から上位グレードを選びがちですが、仕様に対して過剰なら材料費も加工費も膨らみます。
さらに、加工時間を押し上げるポケットの深さや鋭い内角は、そのまま削り代と工数に跳ね返ります。
おすすめは、設計変更の前に部品ごとの材料選定と加工負荷を並べて見直すことです。
チタンの価格は、工程構造を分解すると初めて手の届く変数になります。
素材、加工、回収のどこで価値が毀損しているかを見極めれば、次に動かすべき層が見えてきます。
まずは自社部品のbuy-to-fly比を洗い出し、切りくずの回収区分を確認し、過剰グレードを一つ外してみましょう。
金属材料工学の研究職を経て、チタン素材メーカーの技術部門で10年以上の実務経験を持つ。合金設計・熱処理・材料試験に精通し、JIS規格の策定にも関わった経験がある。
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