チタン素材

チタンとステンレスの違い|強度・耐食性・コストで比較

更新: 村瀬 拓也
チタン素材

チタンとステンレスの違い|強度・耐食性・コストで比較

チタンとステンレスは、軽さと耐食性、そしてコストのバランスで選ぶ金属材料である。Ti-6Al-4Vの比強度はSUS304を大きく上回り、密度もチタンは約4.43〜4.54g/cm³と軽いが、ヤング率はステンレスの約半分しかないため、強度だけで選ぶとたわみで設計をやり直すことがある。

チタンとステンレスは、軽さと耐食性、そしてコストのバランスで選ぶ金属材料である。
Ti-6Al-4Vの比強度はSUS304を大きく上回り、密度もチタンは約4.43〜4.54g/cm³と軽いが、ヤング率はステンレスの約半分しかないため、強度だけで選ぶとたわみで設計をやり直すことがある。
塩化物・海水環境ではチタンがSUS304より明確に有利で、不動態皮膜の再生性が孔食やすきま腐食を抑えるが、約80℃以上の高温・高濃度塩化物では例外もあるため、使用条件の確認は外せない。
価格差は材料原価だけではなく、チタンの製錬コストや難削材ゆえの加工費まで含めて考える必要があり、用途ごとにどちらが合理的かを見極めるのが選定の出発点になる。

結論:用途別チタン・ステンレス早見表

チタンとステンレスを選ぶ起点は、絶対強度ではなく比強度です。
Ti-6Al-4Vは約202、SUS304は約66で、チタンは約3倍の差があります。
しかも密度はチタン約4.43〜4.54g/cm³、ステンレス約7.93g/cm³なので、軽さを活かしたい用途では結論が先に見えます。
とはいえ、チタンが万能という話ではありません。
ヤング率はステンレスの約半分でたわみやすく、価格も材料費と加工費を合わせて5〜15倍になりやすいので、要求仕様を先に言語化してから当てはめる流れがいちばん早いです。

軽量化・耐食性が要るならチタン、コスト・量産ならステンレス

目的別の早見表は、最初の30秒で答えに届くための入口です。
軽量化・運動部品ならチタン、海水や塩化物の耐食を最優先するならチタンまたはSUS316、コストと量産汎用ならSUS304、非磁性や生体適合を優先するならチタン、という整理が実務では分かりやすいでしょう。
調達の現場では「とりあえずチタンにしておけば安心」という発注が過剰コストを生みやすく、先に要求を絞るほど選定は速くなります。
固定部や非運動部まで一律にチタンへ置き換えるのではなく、運動部だけチタン、残りはステンレスという混在設計で性能と費用を両立させる考え方も有効です。

目的推奨材主な理由注意点
軽量化・運動部品チタン軽量剛性確認
海水・塩化物の耐食チタン / SUS316耐食隙間腐食
コスト重視SUS304低コスト塩化物に弱い
量産汎用SUS304加工容易用途を選ぶ
非磁性・生体適合チタン適合性高価格

塩化物・海水環境では、チタンは孔食、すきま腐食、応力腐食割れを起こしにくく、SUS304より明確に有利です。
SUS316はMoを約2〜3%添加して耐孔食性を底上げしており、海水用途ではSUS304よりずっと現実的な選択になります。
耐食性の序列を実務目線で並べるなら、塩化物・海水でチタン>SUS316>SUS304です。
ただしチタンも無条件ではなく、約80℃以上の高温かつ高濃度塩化物では隙間部で問題が出るため、環境の切り分けは欠かせません。

判断を分ける4つの軸

比強度、耐食性、価格、加工性の4軸で並べると、どこでチタンが勝ち、どこでステンレスが勝つかが見えます。
比較の起点を比強度に置くのは、同じ重さでどれだけ荷重を受けられるかが、軽量化設計では最終的な使い勝手を左右するからです。
引張強さだけを見ると見落としが出ますが、密度まで含めると判断の精度が上がります。
ここは後章で、絶対強度ではなく比強度で見る理由を根拠つきで掘り下げます。

チタンステンレス優位
比強度Ti-6Al-4V 約202SUS304 約66チタン
耐食性塩化物で強いSUS304は弱いチタン
価格材料費+加工費で5〜15倍低いステンレス
加工性難削材、低速切削難削材だが量産向きステンレス

引張強さそのものは、純チタン2種が340〜510MPaでSUS304の約520MPaに近く、Ti-6Al-4Vは約895MPa以上まで上がります。
つまり、軽いから弱い、重いから強い、という単純な見方は外れます。
実際の差は密度との組み合わせで効いてきます。
密度がチタン約4.43〜4.54g/cm³、ステンレス約7.93g/cm³である以上、同じ形状ならチタンの方が明らかに軽い部材になります。
非磁性も判断材料になりますが、SUS304とチタンはどちらも磁石では見分けにくいので、見た目だけで決めない方が安全です。

過剰スペックを避ける考え方

過剰スペックを避けるコツは、部品全体を一枚岩で考えないことです。
軽量化が主目的でも、固定部まで全面チタン化するとコストだけが膨らみやすいですし、剛性が要る箇所ではヤング率が約半分のチタンがたわみやすさの原因にもなります。
だからこそ、何を軽くしたいのか、何を腐食から守りたいのか、どこまで加工費を許容するのかを先に決めましょう。
そこが定まれば、チタンにする範囲とSUS304やSUS316に残す範囲を切り分けやすくなります。

この後は、強度章で比強度の読み方を確認し、耐食章で海水や塩化物への向き不向きを押さえます。
続くコスト章では材料費と加工費がなぜ5〜15倍になるのかを整理し、加工章ではチタンの低速切削や溶接条件の考え方を見ていきましょう。
用途章では航空宇宙、医療インプラント、海洋、化学プラント、厨房や建築までを並べ、見分け方章で重さと非磁性の限界を確認してみてください。

強度と軽さ:密度あたりの比強度で見る

純チタン2種、Ti-6Al-4V、SUS304、SUS316を並べると、見たいのは引張強さの高さだけではありません。
材料選定では、0.2%耐力、密度、比強度、ヤング率まで同じ表で見て初めて、軽さと強さの両立度が見えてきます。
純チタン2種はSUS304に近い絶対強度を持ちながら、密度が低いぶん比強度で有利です。
逆にTi-6Al-4Vは強度域が一段上がり、純チタン2種とは用途の分岐点になります。

引張強さ・耐力の比較表

材料引張強さ(MPa)0.2%耐力(MPa)密度(g/cm³)比強度(引張強さ÷密度)ヤング率(GPa)
純チタン2種340〜510215以上4.43〜4.54約77〜115約106
Ti-6Al-4V約895以上約8154.43〜4.54約197〜202約106
SUS304約520約205約7.93約66約197
SUS316SUS304と同等クラス非公表約7.93非公表約197
SUS316LSUS304と同等クラス非公表約7.93非公表約197

純チタン2種は引張強さ340〜510MPa、0.2%耐力215MPa以上、伸び23%以上という、成形性と実用強度のバランスが取れた領域にあります。
Ti-6Al-4Vは焼鈍で引張強さ約895MPa以上、耐力は純チタン2種の約3.8倍に達し、同じチタンでも「軽さ重視」と「高強度重視」で役割が分かれます。
SUS304の引張強さ約520MPaは純チタン2種に近いものの、密度が約7.93g/cm³と重いので、同じ断面積なら部材質量の差が効いてきます。

比強度=強度÷密度で評価する理由

比強度は、引張強さを密度で割って求めます。
たとえば Ti-6Al-4V なら約895÷4.43〜4.54で約197〜202、SUS304 なら約520÷7.93で約66です。
絶対強度だけを見るとSUS304は実用十分に見えますが、密度がステンレスの約56〜60%に収まるチタンは、同じ荷重を支えるのに必要な質量を減らしやすい。
その差が、航空宇宙や運動部品でチタンが選ばれる根拠になります。

純チタン2種とSUS304は引張強さが近いため、軽さだけが目的なら高価な64チタンを使わず、純チタンで足りる場面があります。
ここを外すと、強度は足りているのに材料費だけが跳ね上がる構図になりやすいです。
比強度で見る習慣があれば、過剰スペックを避けながら、必要な軽量化だけを狙えます。
おすすめです。

ℹ️ Note

同じ荷重条件で比較すると、チタンはステンレスより比強度で優位になりやすく、重さが効く部位ほど選定差が出ます。

ヤング率が約半分でたわみやすい点に注意

ただし、チタンは強いのに「硬い」とは限りません。
ヤング率はチタンが約106GPa、ステンレスが約197GPaで、約半分です。
同じ断面・同じ荷重なら、チタンの方が約2倍たわみやすく、引張強さの数字だけ見て置換すると、試作段階で想定外のたわみが出ることがあります。
実際には、比強度で軽量化を評価しつつ、板厚やリブで剛性を補う設計が要ります。

この差は、荷重を支えられるかどうかと、変形をどれだけ抑えられるかが別問題だと教えてくれます。
強度は足りても剛性不足で機能を外す、という失敗は珍しくありません。
だからこそ、たわみ量を実測して板厚を見直す流れを最初から組み込んでおくと、手戻りを抑えやすいです。
しましょう、強度と剛性は別々に見てください。

高温強度ではTi-6Al-4Vが安定した強度を保ち、純チタンは強度が低いため、同じ「チタン」でまとめて扱うと判断を誤ります。
純チタン2種か64チタンか、その選定が強度設計の分岐点です。
軽さを優先するなら純チタン、荷重と温度まで受け持つならTi-6Al-4V。
ここを見分けるだけで、材料の使い方はかなり整理されます。

耐食性:塩化物・海水環境での腐食形態の違い

SUS304は塩化物を含む水や海水に触れると、表面の不動態皮膜が局所的に破れて孔食やすきま腐食が進みやすくなります。
付着物の下やフランジの合わせ目のような酸素が届きにくい場所では、皮膜が守り切れず、穴状の腐食や漏れにつながりやすいのです。
そこでMoを約2〜3%添加したSUS316が選ばれ、海水ポンプや熱交換器ではSUS304からSUS316、さらにチタンへ見直す流れが典型になります。

孔食・すきま腐食はなぜ起きるか

孔食は、塩化物イオンが不動態皮膜を局所的に壊し、付着した異物や傷を起点に小さな局部電池を作って深く進む腐食です。
表面全体が均一に薄くなるのではなく、点で始まって穴状に食い込むため、見た目以上に進行が速いのが厄介です。
すきま腐食は、フランジ接合部やパッキン合わせ目のように液が停滞する隙間で酸素濃度差が生じ、塩化物存在下で皮膜が破れて続く現象で、外から見えにくいぶん発見が遅れやすいでしょう。

チタンが塩化物環境で錆びにくい理由

チタンが食塩水のような塩化物イオンに強いのは、不動態皮膜が損傷しても酸素と反応してすぐ再生する自己修復性を持つからです。
孔食、すきま腐食、応力腐食割れのいずれも起きにくく、ステンレスのように塩化物環境で急に弱点が表面化しにくい点が決定的です。
耐食性を「どちらが上か」で比べるより、「どの腐食形態に強いか」で見ると整理しやすく、一般大気や水道水ではどちらも十分、塩化物や海水ではチタン>SUS316>SUS304という序列で理解できます。

チタンでも腐食しうる例外

ただし、チタンは絶対錆びないわけではありません。
約80℃以上の高温かつ高濃度の塩化物水溶液では、部品の合わせ面にできたわずかな隙間が起点となって、チタンでもすきま腐食が起きうるからです。
高温の塩水環境で使う熱交換器や配管では、ガスケット選定や隙間設計まで含めて検討しないと、材質をチタンにしても弱点が残ります。
温度と濃度が境界条件になる以上、材料名だけで安心せず、使用環境を先に詰める姿勢が求められます。

コスト:材料費と加工費を分けて比較する

チタンは材料単価だけを見ると高く感じますが、実際の見積もりでは加工費と歩留まりまで含めたトータルコストで判断しなければ差を見誤ります。
ステンレスの5〜15倍とされる価格差も、材料原価の高さに加工工数、工具消耗、溶接設備の負担が重なって生まれるものです。
設計段階で形状を単純化し、削り代を減らし、必要部位だけをチタン化するだけでも、総額はかなり変わります。

材料単価の比較

チタンの価格はステンレスの5〜15倍とされますが、この数字を材料代だけの差として受け取ると判断を誤ります。
実際には、材料原価、加工費、歩留まりの3要素が重なって最終単価が決まるため、見積もりの比較軸は「1kgいくらか」ではなく「完成品1個いくらか」に置くべきです。
材料だけを見てチタンを選び、あとから加工費が材料費を上回って予算超過するのは、現場ではよくある誤算です。

材料原価が高い理由は、チタンが製錬の段階から重いコストを背負っているからです。
チタンは酸素との結合が強く、還元や製錬に膨大な電力と長い工程を要します。
鉄系材料のように容易に安く量産できる構造ではなく、原料段階でコストが積み上がる。
ここを外すと、後工程だけで価格差が生まれているように見えてしまいます。

加工費・歩留まりまで含めたトータルコスト

チタンが高いのは材料費だけではありません。
難削材であるため、工具寿命が短く、低速切削が必要になり、同じ形状でも加工時間が延びます。
溶接でも大気を遮断する不活性ガスチャンバーや高温炉が要るため、設備コストと管理コストが上乗せされます。
つまり、単価の差は素材の値札ではなく、加工現場での手間と設備負担まで含めた総和だと考えるのが自然です。

歩留まりも無視できません。
チタンは材料取りの都合が悪い形状だと、削り落とす量が増えて、そのまま材料ロスになります。
切削量の多い複雑形状をチタンで作ると、工具費と工数で跳ね上がる。
だからこそ、見積もりでは材料費だけを比較するのではなく、加工費込みの単価で並べる習慣が要ります。
完成品ベースで比べて初めて、5〜15倍という差の内訳が見えてきます。

チタンのコストを抑える設計の工夫

コストを抑える鍵は、チタンを「高性能だから使う」のではなく、「要求に対して本当に必要か」で選ぶことです。
軽量化や耐食性が定量的に効かない部位にまでチタンを広げると、過剰スペックになりやすい。
運動部だけチタン化し、残りはステンレスにする混在設計は、その典型です。
素材の良さを活かしつつ、全体の支出を抑えやすくなります。

設計面では、まず形状を単純化して切削量を減らすのが効果的です。
削り代が少ないほど工具消耗も工数も抑えやすいので、複雑なポケットや深い肉抜きは避けたほうが現実的です。
さらに、棒や板など歩留まりの良い素材形状を選べば、材料ロスを減らせます。
チタンのコスト対策は、材料選定だけでなく、図面の段階で半分決まると考えておくとよいでしょう。

加工性:両者とも難削材だが理由が違う

チタンとステンレスはどちらも難削材ですが、難しさの種類はかなり違います。
チタンは熱が逃げにくく、刃先に熱が集中して工具摩耗やチッピングを招きやすい材料です。
ステンレスは加工硬化が強く、切った直後の硬い表層が次の刃に負荷をかけるため、同じ「削りにくい」でも対策の組み立て方が変わります。

チタンが難削材とされる理由

チタンの切削で最初に効いてくるのは熱です。
熱伝導率が鉄の約1/4しかないため、切削熱が切りくずへ流れにくく、刃先に熱が溜まりやすい。
Ti-6Al-4Vの旋削で切削速度40〜60m/min程度に抑えるのは、この熱集中をこれ以上悪化させないためで、鉄やステンレスの感覚で速度を上げると工具寿命が急に縮みます。
現場で「思ったより工具が持たない」と相談が入るときは、送りや切込みより先に、速度設定を見直すだけで改善することが少なくありません。
低速寄りに振り、送りを大きめに取り、クーラントを切らさない組み立てが基本になります。

さらにチタンは化学的に活性で、高温になった刃先と焼き付きやすい材料です。
切れ味が落ちた工具で無理に進めると、切削ではなく擦過に近い状態になり、摩耗だけでなくチッピングも進みます。
工具材種の選定、クーラントの当て方、低速条件の維持がそろって初めて安定しやすく、ここを外すと加工音や表面粗さにすぐ跳ね返ります。

ステンレスの加工難(加工硬化)との違い

ステンレスも難削材ですが、チタンと違って加工硬化が主因です。
切削した直後の表層が硬くなり、その硬化層を次の刃がさらに削るため、負荷がじわじわ増えていきます。
加えてステンレスも熱伝導率が低いので熱はこもりますが、チタンのように「熱が逃げないこと」と「焼き付きやすさ」が前面に出るのではなく、「硬くなった表層を削り続ける負担」が加工難の中心になります。
ここを分けて考えると、刃先の寿命低下の理由を見誤りにくいでしょう。

要するに、チタンは熱と反応性で工具を追い込み、ステンレスは加工硬化で負荷を積み上げる材料です。
同じ難削材でも、切削速度の詰め方、送りの持たせ方、工具交換の判断基準が一致しません。
現場ではこの違いを押さえておくと、原因切り分けが楽になります。

溶接・曲げ加工での注意点

曲げ・プレスでは、チタンのばね性の強さが効いてきます。
スプリングバックが大きいので、狙い寸法に対して曲げ過ぎる補正が必要です。
チタン板のプレスでスプリングバックを見込まずに金型を作ると、試打ち後に戻り量を実測してから型を補正する流れになりがちです。
しかもチタンの線膨張係数はステンレスの約50%で熱変形は小さいため、熱で勝手に逃げる前提は取りにくい。
寸法づくりは「曲げ戻りを見込んで先に攻める」設計が要になります。

溶接では、チタンは高温で酸素・窒素・水素を吸収して脆化するため、不活性ガスでのシールドを徹底しなければなりません。
ステンレスでも溶接管理は必要ですが、チタンは高温域の汚染に対する許容がずっと小さく、設備要件も厳しくなります。
溶接ビードの色や周辺の変色は品質の目安になり、見た目の乱れがそのまま性能低下に直結しやすい材料です。
加工現場では、切削だけでなく成形と接合まで含めて、チタンは一段上の管理を求められると考えておくとよいでしょう。

用途別の使い分けと選び方

チタンとステンレスの使い分けは、見た目の高級感ではなく、要求性能のどこに重心があるかで決まります。
軽量化、塩化物耐食、生体適合性、非磁性が同時に効く場面ではチタンが有利で、コストと加工性を軸に量産する領域ではステンレスが合理的です。
化学プラントのように条件差が大きい現場では、同じ設備でも区間ごとに材料を分ける考え方が欠かせません。

チタンが合理的な用途

チタンが選ばれるのは、軽さ・強度・耐食性を同時に満たしたい場面です。
航空宇宙の機体やエンジン部品、海洋機器、化学プラントの塩化物環境では、密度が小さいことがそのまま設計自由度につながります。
質量を落とせば搬送や可動部の負荷が減り、しかも塩化物に強いなら表面処理に頼りすぎずに済むため、長期の信頼性を組み立てやすいのです。

医療分野では、チタンの生体適合性と金属アレルギーの起きにくさが決定的です。
インプラント、人工関節、歯科用途では、体内で長く接触する以上、単なる強度だけでは足りません。
耐食性が高く、金属イオンの溶出を抑えやすいことが、人体との相性を左右します。
アクセサリーやアウトドアクッカーにチタンが使われるのも同じ論理で、生活レベルでは「軽い」「肌に触れても使いやすい」が選定理由になります。

さらに、非磁性が必要な精密機器やMRI周辺、熱変形を抑えたい部位でもチタンは有力です。
強度と耐食性だけでなく、線膨張係数の小ささが効くため、寸法安定性を重視する設計で使いやすくなります。
見落とされがちですが、材料選定は「壊れないか」だけでは終わりません。
動かない、ずれない、測定を乱さないことまで含めて考えると、チタンの価値がはっきりします。

ステンレスが合理的な用途

ステンレスは、量産汎用領域で強い材料です。
厨房用品、建築、一般工業部品、配管のように、初期コストと加工性、調達のしやすさが優先される場面ではSUS304が標準解になります。
必要以上に高性能な材料を入れると、材料費だけでなく加工負荷や部材単価まで膨らみます。
過剰スペックを避けるという意味でも、ステンレスの採用はきわめて自然です。

化学プラントでは、塩化物濃度と温度で材料を分ける考え方が有効です。
厳しい区間はチタン、条件が緩い区間はSUS316というように、ライン区間ごとに見直せば、耐食とコストの両立がしやすくなります。
配管全体を一律に高級材へ寄せるのではなく、腐食条件が本当に厳しい場所だけを見極める。
こうした使い分けが、設備更新や新設のコスト最適化につながります。
現場では、材料そのものよりも「どこまで要求されるか」の見極めが勝負です。

迷ったときの選定フロー

判断に迷うなら、軽量化が定量的に効くか、塩化物や海水環境か、その温度と濃度はどの程度か、生体適合や非磁性が要るか、最後にコスト制約はどうか、という順で見ていくと整理しやすいです。
前半の条件でチタンが浮かび、後半でSUS304やSUS316が残ることが多いでしょう。
おすすめは、機能要求を先に固定してから材料を当てるやり方です。
順番を逆にすると、見た目や価格だけで決めてしまいがちになります。

この流れで考えると、用途は自然に絞れます。
航空宇宙や医療、海洋のように「軽いこと自体が性能」になるならチタンが候補ですし、厨房や建築、一般工業部品のように量産性が支配的ならステンレスが妥当です。
迷ったら、まず使う環境を書き出してみてください。
塩化物、温度、磁性、体内接触の有無を一つずつ並べるだけで、材料の優先順位は見えてきます。

チタンとステンレスの見分け方

チタンとステンレスは、現場ではまず重さで見分けるのが手早いです。
同サイズ・同形状ならチタンはステンレスの約56〜60%の重さなので、持ち比べた瞬間に軽さが分かります。
見た目だけでは迷う場面でも、手にしたときの感触は一次判別として頼りになります。

重さと磁性での簡易判別

重さの差は、材料の比重差がそのまま表に出るからこそ使いやすい判別軸です。
チタンは軽量化を狙う部品で選ばれることが多く、同じ寸法ならステンレスより明らかに負担が小さくなります。
持ち替えたときの差がはっきり出るため、現場ではまずここで当たりを付けるのが実用的でしょう。

磁石も補助にはなりますが、万能ではありません。
チタンとSUS304系はどちらも基本的に非磁性なので、磁石が付かないというだけでは区別できません。
むしろ磁石が反応するかどうかで、SUS400系のような磁性を持つ鋼材かどうかを切り分ける用途に向いています。
SUS304は基本非磁性、SUS400系は磁性あり、チタンは非磁性という整理で使い分けると誤判定を減らせます。
現場で「磁石が付かないからチタンだ」と早合点して取り違える事故が起きやすいのは、この落とし穴があるためです。
重さと併用してみてください。

火花・色味・質感での見分け

火花、色味、表面の質感も手がかりにはなります。
チタンは表面の酸化皮膜による干渉色が出やすく、研磨したときの質感にも独特の印象があります。
切断や研磨の場面で見える火花の出方や、金属光沢の落ち着き方に慣れていると、経験的には判断材料が増えるはずです。

ただし、これらはあくまで経験則です。
仕上げ状態、加工履歴、表面処理の有無で見え方が変わるため、色味や手触りだけで材質を断定するのは危険です。
特に外観が似た部品では、見た目の印象が先に立ってしまいがちですが、そこだけで決めると取り違えの原因になります。
簡易判別としては有効でも、確実な判定法には置かないほうがよいでしょう。
おすすめは、見た目の情報を補助線として使い、重さや磁性と組み合わせて判断する流れです。

確実な判別は成分分析

材質を確定したいなら、蛍光X線分析などの成分分析が必要です。
チタンかステンレスかを本当に分けたい場面では、表面の印象や磁石の反応ではなく、元素組成を見たほうが早くて確実です。
重要部品の受入検査や、後工程での不具合を避けたい場面では、簡易判別だけで通さず、分析を標準手順に組み込んでおくべきです。

受入検査で簡易判別だけで通したロットに材質違いが混入し、後工程で発覚するトラブルは珍しくありません。
後から混入が分かると、加工や組立のやり直しだけでなく、品質保証の説明まで必要になります。
そこで最初から蛍光X線などで確定しておけば、こうした手戻りを防ぎやすくなります。
現場では、簡易法で候補を絞り、成分分析で確定する流れにしましょう。
おすすめです。

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村瀬 拓也

金属材料工学の研究職を経て、チタン素材メーカーの技術部門で10年以上の実務経験を持つ。合金設計・熱処理・材料試験に精通し、JIS規格の策定にも関わった経験がある。

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