チタンのJIS規格一覧|種類記号の読み方
チタンのJIS規格一覧|種類記号の読み方
チタン材の図面や仕様書で混線しやすいのが、JIS H 4650のような規格番号と、TP340TAB6400のような種類記号を同じものとして扱ってしまうことです。
チタン材の図面や仕様書で混線しやすいのが、JIS H 4650のような規格番号と、TP340TAB6400のような種類記号を同じものとして扱ってしまうことです。
調達図面レビューでも「JIS番号=材料種別」と書かれた誤記は繰り返し現れますが、規格番号は形状、種類記号は材料と切り分けるだけで記載の精度は一段上がります。
海外図面でASTM Grade 5とだけ指定された案件をJISの棒材図面へ読み替える場面でも、まず形状を確定します。
次に該当JISを当て、そこからTi-6Al-4VとTAB6400の対応を照合する順に見ていくと迷いません。
JISC JIS検索や日本チタン協会|チタンの規格で原典の位置づけを押さえながら、TP270・TP340・TAB6400・Ti-6Al-4V・Ti-6Al-4V ELIの関係を比較表でほどいていきます。
チタンのJIS規格とは何か

JISの構造と部門記号
JISは日本産業規格であり、日本の国家規格です。
製品や材料、試験方法、用語のそろえ方を国のルールとして定める制度で、図面・購買仕様・検査成績書の読み方を共通化する土台になります。
チタン分野でも、板、棒、管、鍛造品といった形状ごとに参照すべき規格が分かれており、材料の指定を曖昧にしないための基準として機能しています。
日本規格協会のJISとは何かでも、JISが国家規格として産業活動の共通言語を担う位置づけで説明されています。
規格番号の基本形式は、「JIS + 部門記号 + 4桁番号(+ 年)」です。
たとえばJIS H 4600なら、Hは非鉄金属分野を示す部門記号で、4600がその分野内での個別規格番号です。
発行年や改正版年を含めると JIS H 4600:2017 のように表されます。
チタンでは、板及び条を対象とするJIS H 4600、棒を対象とするJIS H 4650、鍛造品を対象とするJIS H 4657のように、同じチタン材料でも製品形状が変われば参照するJIS番号も変わります。
実務では、この「JIS H XXXX 形式」での統一が効いてきます。
社内設計標準の改訂で番号表記をそろえたときも、見出しの作り方を「規格番号」「規格名称」「対象形状」「対応する種類記号の例」「図面記載例」の順に整えるだけで、設計・調達・検査の会話が噛み合いやすくなりました。
JIS H 4600を「板材の規格」、JIS H 4650を「棒材の規格」と最初に固定しておくと、種類記号や通称が混じっても読み解く軸がぶれません。

トップページ | 日本規格協会
日本規格協会グループ公式ウェブサイト「JSA GROUP Webdesk」のトップページです。日本産業規格JISや国際規格ISO・IEC、海外規格ASTM・BS・DIN・ASME・UL等の規格販売。品質管理や信頼性等の管理技術、ISOマネジ
www.jsa.or.jp規格番号と種類記号の違い

ここで切り分けたいのが、規格番号と種類記号は別物だという点です。
規格番号は「どの規格票を参照するか」を示し、種類記号は「その規格の中でどの材料グレードを指定するか」を示します。
前者の例がJIS H 4600、後者の例がTP340やTAB6400です。
同じ行に並んで書かれることが多いため混同されがちですが、役割は明確に異なります。
たとえばJIS H 4600は、チタン及びチタン合金の板及び条を対象とする規格です。
その中で純チタン2種を指定するならTP340のような種類記号が現れます。
一方、JIS H 4650は棒を対象とする規格で、Ti-6Al-4V系の棒材を指定する文脈ではTAB6400のような種類記号が使われます。
つまり、JIS H 4600やJIS H 4650は「入れ物」であり、TP340やTAB6400はその中に並ぶ「材料の種類」です。
この区別が曖昧なままだと、図面で「JIS H 4650 TP340」と書くべきか、「JIS H 4600 TAB6400」と書くべきかの整合が崩れます。
TP340は純チタン系、TAB6400はTi-6Al-4V系という材料側の情報であり、JIS H 4600やH 4650は板か棒かという形状側の情報です。
設計審査では、まず形状を確定して規格番号を選び、その後に必要強度や用途に応じて種類記号を当てる順で読むと誤記が減ります。
ℹ️ Note
チタンのJIS表記は、「どんな形の製品か」を規格番号で決め、「その中のどの材種か」を種類記号で決める、という二段構えで読むと整理できます。
最新版確認の基本動作

JIS番号は、知っているつもりで古い版を前提に会話してしまう場面が少なくありません。
そこで必要になるのが、規格票の最新版と改正版年をJISCの公式検索で確認するという基本動作です。
JISC JIS検索では、JIS番号から現行版の有無や改正履歴を追えます。
チタン材ではJIS H 4600がよく参照されますが、規格概要情報では1964年制定、2017年10月20日改正番号だけ覚えていても、どの年版を前提にしているかが抜けると、社内標準・購入仕様・試験成績書の整合が取りにくくなります。
実務上は、番号を見たらまずJISCで正式表記を確認し、必要に応じてJSAの頒布ページで規格票本文に当たる、という順序が安定します。
社内標準を整備した際も、見出しに「JIS H 4600」だけを書く運用ではなく、「JIS H 4600:2017」のように版を含める書き方へ寄せることで、改訂漏れの洗い出しが進みました。
規格番号の見た目がそろうだけでなく、どの版で設計判断したかを追跡できるようになるためです。
この確認作業は、種類記号の読み替えやASTMとの対応を考える前段でも効いてきます。
JIS H 4650が棒、JIS H 4600が板及び条という骨格が合っていても、版が異なれば記載項目や呼び方の整理が変わることがあるため、まず現行の規格番号表記を固める。
そのうえでTP340やTAB6400を照合すると、図面・発注・受入検査の各段階で話がずれにくくなります。
日本産業標準調査会:データベース検索-JIS検索
www.jisc.go.jpチタン材料でよく使うJIS規格一覧

形状別にJISを並べると、チタン材の規格体系は一気に読み解きやすくなります。
チタン分野では、同じ純チタンやTi-6Al-4Vでも、板・棒・管・鍛造品で参照する規格番号が分かれています。
日本チタン協会|チタンの規格でも主要規格として整理されている通り、まずは形状で規格番号を選び、その後にTP340やTAB6400などの種類記号を当てる流れが基本です。
実務では、この順番が崩れると見積回答や図面展開で齟齬が出ます。
実際、棒材の見積依頼に対して板材規格の JIS H 4600 を前提に回答してしまい、寸法条件や入手ルートの確認をやり直すケースは珍しくありません。
こうした混同は、材料名の誤りというより形状別規格の取り違えで起こります。
社内で再発を防ぐには、「形状」「JIS規格番号」「種類記号」を別欄で確認するだけでも効果があります。
| 形状 | 主なJIS規格 | 適用範囲の要点 |
|---|---|---|
| 板・条 | JIS H 4600 | チタン及びチタン合金の板及び条 |
| 継目無管 | JIS H 4630 | チタン及びチタン合金の継目無管 |
| 熱交換器用管 | JIS H 4631 | 熱交換器用途のチタン管 |
| 溶接管 | JIS H 4635 | チタン及びチタン合金の溶接管 |
| 棒 | JIS H 4650 | チタン及びチタン合金の棒 |
| 鍛造品 | JIS H 4657 | チタン及びチタン合金の鍛造品 |
| 線 | JIS H 4670 | チタン及びチタン合金の線 |
| スポンジチタン | JIS H 2151 | 原料としてのスポンジチタン |
板・条
板材・コイル材・シート材を扱うときの基準は JIS H 4600 です。
適用範囲は「チタン及びチタン合金の板及び条」で、圧延板や薄板、条材を含む形で使われます。
図面上で TP270、TP340、Ti-6Al-4V などの材料名が書かれていても、対象が板であれば最初に当たる規格は JIS H 4600 となります。
JIS H 4600 概要でも板及び条の規格として整理されています。
板材は耐食機器、化学装置、外装部材、成形品の母材として使われることが多く、純チタン系では TP270 や TP340 のような種類記号が実務で頻出します。
海水や薬液に触れる薄板であれば、純チタンを優先する判断が取りやすく、板厚 1 mm 前後の耐食用途では高強度合金を使わなくても要件を満たすことが少なくありません。
ここで棒材規格の JIS H 4650 を持ち込むと、寸法系列や検査項目の整理がずれてしまいます。
棒

丸棒、角棒、六角棒などの棒材は JIS H 4650 で扱います。
適用範囲は「チタン及びチタン合金の棒」で、切削加工用素材、締結部品の母材、構造部材のブランクに広く用いられます。
板材と最も混同されやすい形状ですが、H 4650 は棒、H 4600 は板・条という切り分けを固定しておくと、図面読解の精度が上がります。
棒材では、純チタンだけでなく TAB6400 と Ti-6Al-4V の組み合わせがよく登場します。
たとえば Ti-6Al-4V は 900〜1,170 MPa 級の引張強度が紹介される代表的な α+β 型合金で、棒材としては高強度部品や機械構造材に使われます。
ø10 mm の丸棒を想定すると、断面積は 78.54 mm² なので、900 MPa 級の強度で見た破断荷重の目安は約 70.7 kN です。
これに対し TP340 を 340 MPa 級として見ると約 26.7 kN で、同じ「棒」でも種類記号で強度の見え方が大きく変わります。
版年にも触れておくと、JIS H 4650 は 2012 年版から 2016 年版へ改正された履歴が確認できます。
棒材規格は引用頻度が高いため、社内標準や仕様書に古い年次が残りやすい規格のひとつです。
最新版の特定はJISC JIS検索で番号ごとに行う運用が適しています。
継目無管(JIS H 4630)と熱交換器用管

管材は用途別の切り分けが必要で、ここがチタン規格の中でも混乱しやすい領域です。
一般的な継目無管は JIS H 4630、熱交換器向けの管は JIS H 4631 を参照します。
どちらも管ですが、前者は形状としての継目無管、後者は用途を明示した熱交換器用管という整理です。
化学プラント、発電設備、海水利用設備のように管の使用条件が厳しい分野では、この違いが仕様の出発点になります。
管系では JIS H 4635 も見逃せません。
これはチタン及びチタン合金の溶接管を対象とする規格で、継目無管とは別に整理されています。
日本規格協会の頒布情報でも JIS H 4635:2012 が確認でき、継目無管、熱交換器用管、溶接管を同じ「管」として一括処理しないことが分かります。
実務で「チタン管」とだけ書かれた仕様は、このどれを想定しているかを読み分けないと調達条件が定まりません。
ℹ️ Note
管材は「形状だけで選ぶ」のではなく、「継目無か、熱交換器用途か、溶接管か」で規格番号が分かれます。JIS H 4630、JIS H 4631、JIS H 4635 の3本をセットで見ると整理しやすくなります。
なお、管系規格は用途別に複数あるため、採用時にはJISC JIS検索で最新の対象規格を照合する運用が合います。
とくに熱交換器用管と一般配管用の読み違いは、要求品質の取り違えに直結します。
鍛造品

高強度用途では Ti-6Al-4V 系鍛造品が候補になりやすく、航空機、輸送機器、医療機器向け部材での採用例が知られています。
鍛造品は寸法の自由度と組織制御の観点から、棒材よりも前工程の情報が仕様に入り込みやすい形状です。
図面で鍛造ブランクを指定するなら、JIS H 4657 を明記しないと、棒材からの機械加工品として解釈される余地が残ります。
線
線材の基準は JIS H 4670 です。
適用範囲は「チタン及びチタン合金の線」で、ばね材、溶接材料、細径加工材、編組材の母材など、細い連続材を対象にします。
ここでも混同を避けたいのは、H 4670 は線であり、棒ではないという点です。
外径が小さいから棒材規格でもよい、という整理にはなりません。
外部サイトでは H 4650 と H 4670 の対象形状が混在して説明される例がありますが、形状別規格の体系としては棒と線は分離されています。
加工現場では、コイル供給される細径材や連続引抜き材は線材の管理で扱う方が自然で、寸法公差や受入形態も棒材とは異なります。
細径の Ti-6Al-4V や純チタン材を使う案件でも、線材である以上は JIS H 4670 側で読むのが筋です。
スポンジチタン

原料段階の規格として押さえておきたいのが JIS H 2151 です。
これは展伸材の形状規格ではなく、スポンジチタンを対象とする規格です。
スポンジチタンは溶解原料として使われる多孔質のチタンで、板・棒・管のような最終形状材とは役割が異なります。
製品図面に直接現れる頻度は高くありませんが、素材品質の出発点を理解するうえで位置づけを知っておく意味があります。
国内のチタン供給体制を考えると、スポンジチタンからインゴット、スラブ、ビレットを経て、板・棒・管・鍛造品へ展開される流れになります。
つまり JIS H 2151 は、JIS H 4600、JIS H 4650、JIS H 4630、JIS H 4657 などの前段にある規格です。
調達実務では直接指定する機会は限られても、材料証明や上流工程の理解では無視できない規格番号です。
種類記号の読み方|TP・TAB・Ti-6Al-4Vはどう対応するか
純チタン1〜4種とTP270/TP340の考え方
種類記号は、チタンという材料名そのものではなく、形状別の規格票に定義される「種類」を読むための記号です。
このため、同じ純チタンでも板・条で見るのか、棒で見るのか、管で見るのかで、参照する規格票と記号表の見え方が少し変わります。
前述のとおり、まず形状の規格番号を決め、その規格票の中で「種類」を読むという順番で捉えると混線しません。
規格番号の所在確認はJISC JIS検索でたどれます。
実務上、TP270 や TP340 の数字(270、340)は強度の「目安」として扱われることが多いものの、これはベンダー慣行や現場での読み方であり、JIS 規格の公定値や出荷成績書(ミルシート)の保証値と同一視してよいものではありません。
厳密な保証値を参照する場合は、該当する形状別規格票(例: JIS H 4600 / JIS H 4650)の種類表と機械的性質欄、成績書を突き合わせて確認してください。
純チタン1〜4種という呼び方は日本語としては直感的ですが、図面や調達書類では TP 系記号のほうが直接出てくる場面が多くあります。
したがって、「1種だから柔らかめの純チタン」「2種だから汎用純チタン」という口頭理解だけで止めず、TP 記号と機械的性質の関係まで結びつけて読むのが実務的です。
実務上、TP270 や TP340 の数字(270、340)は強度の「目安」として扱われることが多いものの、これを規格の公定値や成績書の保証値と同一視するのは適切ではありません。
厳密な化学組成や最低引張強さを参照する場合は、該当する形状別規格票(例: JIS H 4600 / JIS H 4650)の種類表と機械的性質欄、成績書(ミルシート)を突き合わせて確認してください。
ここで混同しやすいのが、Ti-6Al-4V という合金名と、TAB6400 というJISの種類記号は同じ階層の言葉ではない、という点です。
Ti-6Al-4V は化学組成に基づく合金の呼び名で、TAB6400 は形状別JIS規格の中で定義される種類記号です。
図面で「Ti-6Al-4V」と書くか、「TAB6400」と書くかで表現の切り口が違うだけで、棒材の文脈では重なる場面が多い、という理解が適切です。
Ti-6Al-4V ELI も併せて押さえておきたい材料です。
ELI は Extra Low Interstitial の略で、低介在元素版を指します。
通常の Ti-6Al-4V より靱性や低温特性を重視するグレードとして扱われ、医療や低温機器の文脈で名前が挙がります。
JIS の種類記号では、形状ごとの規格票で ELI 側の種別を確認する読み方になります。
棒材では TAB6400 を起点に理解されることが多いものの、通常材と ELI 材は同じ名前の延長で一括せず、規格票の種類欄と要求特性の欄を対応づけて読む必要があります。
業界では Ti-6Al-4V を「64チタン」あるいは「ロクヨン」と呼ぶことがあります。
通称としては通用しますが、本文では正式名称の Ti-6Al-4V を優先したほうが誤読が起きにくくなります。
とくに JIS種類記号、ASTM Grade、化学組成名が並ぶ文脈では、「64チタン」は便利な略称である一方、規格上の正式表記ではありません。
仕様書や技術文書では、Ti-6Al-4V と書いたうえで必要に応じて通称を補うほうが情報の粒度が揃います。
💡 Tip
合金名、JIS種類記号、通称は同じ材料を別の角度から呼んでいるだけではありません。Ti-6Al-4V は組成名、TAB6400 はJISの種類、64チタンは慣用呼称という切り分けで読むと整理できます。
ASTM Gradeとの対応関係

海外規格と突き合わせる場面では、ASTM Gradeとの代表対応を押さえておくと見通しが立ちます。
実務で最もよく使われる近似対応は、純チタン1〜4種がおおむね ASTM Grade 1〜4、Ti-6Al-4V がおおむね Grade 5、Ti-6Al-4V ELI がおおむね Grade 23という整理です。
日本チタン協会の規格整理やメーカー技術資料でも、この対応関係を補助的に読む使い方が一般的です。
ただし、ここでの「対応」は代表的な対照関係であって、規格票の文言まで含めた完全同等を意味するわけではありません。
JIS は形状別に種類を定義し、ASTM は ASTM B348 のように製品規格ごとに Grade を定義します。
したがって、TP340 と Grade 2、TAB6400 と Grade 5 が似た材料群を指していても、図面上の要求事項、試験条件、受渡し条件まで自動的に一致するとは読めません。
ここでも「形状規格を確認してから種類を照合する」という順序が効いてきます。
対応イメージを言い換えると、国内図面で TP340 と書かれているものを海外材の文脈で見ると Grade 2 が候補になり、TAB6400 と書かれていれば Grade 5 が候補になる、という感覚です。
実際の変換では、JIS側の種類表と機械的性質表、ASTM側の Grade 表を並べて、材料区分が純チタンなのか合金なのか、さらに強度要求がどの帯域にあるかを照らし合わせます。
この見方を持っていると、JIS記号、合金名、ASTM Grade が一つの図面や見積書に同居していても、表記の違いに振り回されにくくなります。
純チタンとチタン合金の違いをJISで読む

α/β/α+β分類の基礎
チタン材の性能差を読むときは、JIS の種類記号だけでなく、どの相を土台にした材料かを見ると整理しやすくなります。
チタンは常温では α相 が安定で、約882〜885℃付近を境に β相 へ同素変態することが知られています。
この変態温度を前提に、添加元素で α相を安定化させるか、β相を残しやすくするかによって、実用合金は α型、β型、α+β型 に分けられます。
この分類は単なる学術用語ではなく、選定の初期判断にそのままつながります。
α型は耐食性や溶接性の方向で利点があり、β型は加工性や熱処理性の側で特徴が出ます。
その中間で、強度・靱性・加工性のバランスを取りやすい代表格が α+β型です。
Ti-6Al-4V が広く使われるのは、このバランスの良さがあるからです。
物理的な背景も見逃せません。
チタンの密度は 4.51 g/cm³前後で、鉄の約60%です。
つまり、同じ強度帯を狙うときに「軽いのに強い」という比強度の利点が出やすい材料群だと読めます。
純チタンか合金かの判断は、単に引張強さの数字だけでなく、必要な強度をどの重量で達成するかという視点で見ると腹落ちします。
JIS の実務では、この組織分類をそのまま規格票の見出しに書いていない場合でも、種類記号と合金名を照合すると位置付けが見えてきます。
規格番号そのものは前述の通り形状を示すので、板ならJIS H 4600、棒ならJIS H 4650という入口から入り、そのうえで純チタンなのか、Ti-6Al-4V のような α+β型合金なのかを読む流れになります。
JIS 番号の確認自体はJISC JIS検索で追えますが、設計上の意味を持つのはその先の材料区分です。
純チタンの強度レンジと耐食性

純チタンは常温で α相をとる材料で、耐食性と成形性を優先したい場面の基準材として扱われます。
一般的な技術資料では、純チタンの引張強度は 270〜750 MPa の範囲で紹介されており、JIS の 1〜4種もこの流れの中で理解すると把握しやすくなります。
大まかには、1種から4種へ進むほど強度側に寄ると読めます。
実務でよく使う整理としては、純チタン1種の TP270、2種の TP340、3種、4種の順に強度レンジが上がっていく、という見方です。
TP270 は 270 MPa 級、TP340 は 340 MPa 級の目安として読まれることが多く、数字が最低引張強さの目安と結びついて理解されています。
純チタンの中では 2種が耐食性と強度の釣り合いがよく、化学装置や耐食板材で名前が挙がることが多いのはこのためです。
塩水を扱う化学装置の板材を検討する場面では、まず板の規格としてJIS H 4600を当たり、種類欄で 純チタン2種の TP340 を第一候補に置く流れが自然です。
板厚を無理に薄くして高強度を追うより、海水や塩化物を含む環境で表面の不働態皮膜を安定して使えることのほうが効く案件では、純チタン2種から入るほうが設計の筋が通ります。
冷間成形も絡むなら、Ti-6Al-4V のような高強度合金を最初から当てるより、純チタン側で成立するかを見るほうが現場感覚に合います。
純チタン1〜4種の違いを一言でまとめるなら、耐食重視なら純チタン、しかもまず 2種を軸に考えるというのが定石です。
1種はより軟らかい側、4種は純チタンの中で強度を取りに行く側ですが、耐食部材としての使い勝手と流通性を含めると、2種は起点になりやすいポジションです。
強度を追っても純チタンの範囲にとどまるため、必要性能が 900 MPa 級に届くかどうかを問う用途では、早い段階で合金側に切り替えることになります。
⚠️ Warning
初期選定では、耐食性と冷間成形を優先するなら純チタン、強度要求が先に立つなら合金、という切り分けにすると候補材が散らかりません。
Ti-6Al-4Vの位置付けと用途イメージ

Ti-6Al-4V は代表的な α+β型チタン合金で、アルミニウムを 6%、バナジウムを 4% 添加した材料です。
通称では 64チタンとも呼ばれますが、規格や図面の文脈では正式名の Ti-6Al-4V で読むほうが誤解がありません。
一般的な技術資料では引張強度が 900〜1,170 MPa 級で紹介され、純チタンより一段上の強度帯を担当します。
この材料の位置付けは、単に「強いチタン」ではなく、チタンの軽さを保ったまま高強度を得るための標準解に近いものです。
密度は合金化でやや上がるものの、鋼より軽いという前提は変わらないため、構造部材や締結部材では比強度の利点が効きます。
たとえば ø10 mm の丸棒を 1 m で見ても質量は約 0.35 kg 程度で、片手で持てる軽さに収まりながら、900 MPa 級として見れば破断荷重の目安は約 70.7 kN に届きます。
純チタン2種の同径材がおよそ 26.7 kN の目安になることを考えると、設計の前提が別物になります。
締結や構造用途で Ti-6Al-4V を選ぶ場面では、まず必要強度が 900 MPa 級なのかをはっきりさせ、そのうえで形状に応じた JIS 規格の機械的性質欄を読む、という順番になります。
棒材ならJIS H 4650の種類記号として TAB6400 を起点に照合し、図面の Ti-6Al-4V 表記と規格票の種別がつながるかを見る、というのが一般的な実務手順です。
ここでは「Ti-6Al-4V だから使える」とは読まず、要求強度を規格値の帯域で満たす材料かという見方を取ります。
用途イメージとしては、純チタンが化学装置、耐食板、海水接触部材の方向に強いのに対し、Ti-6Al-4V は機械、輸送機器、医療、各種構造材に広がります。
特に、薄板の耐食部材では純チタンが先に候補へ上がり、ボルト、シャフト、治具部品、軽量構造のように断面を絞っても必要荷重を受けたい部位では Ti-6Al-4V が前に出ます。
選定の入口としては、耐食重視なら純チタン、高強度や剛性の要求が先なら Ti-6Al-4V 系という切り分けで十分に実務的です。
JIS規格票の見方

規格票の章立てとチェック箇所
JIS の規格票は、見慣れるとどれも似た構成ですが、実務では上から順に読むより、用途に直結する章を先に拾うほうが精度が上がります。
チタン材でまず当たるのは、適用範囲、種類、化学成分、機械的性質、試験方法の並びです。
その後に、表面・外観、寸法及び許容差、内部性状に関する試験、表示や検査の扱いが続きます。
図面や見積仕様と照合する場面では、この流れに沿って「何が保証値で、何が受渡し条件か」を切り分けると読み違いが減ります。
最初に見るべきなのは適用範囲です。
ここで対象形状が板・条なのか、棒なのか、管なのかが確定します。
同じ Ti-6Al-4V でも、板ならJIS H 4600、棒ならJIS H 4650で見る場所が変わります。
JISC JIS検索で番号を確認したうえで、形状別の規格票に入るという順序が基本です。
規格番号だけ一致していても、対象形状がずれていれば機械的性質の表も寸法の扱いも別物になります。
次に種類の章で、TP270、TP340、TAB6400のような種類記号を特定します。
ここは材料名の読み替え欄ではなく、規格上の品種を確定する場所です。
純チタンか合金かを見分ける入口でもあり、図面に「64チタン」とだけ書かれている案件では、正式には Ti-6Al-4V に相当する種類記号へ落とし込めるかどうかが分岐点になります。
業界俗称のままでは、化学成分表にも機械的性質表にも正しくたどり着けません。
その次に化学成分を見ます。
ここでは、純チタン系なのか、Al や V を添加した合金系なのかを確認します。
Ti-6Al-4V であれば、名前の通り Al と V を含む α+β 型合金として読みます。
この確認は単なる名称照合ではありません。
溶接を伴う部品なのか、耐食を主目的とするのかで、純チタンと合金では評価軸が変わるためです。
海水や化学装置寄りなら純チタン側が候補に残りやすく、断面を絞って荷重を受ける部材では Ti-6Al-4V 側が前に出ます。
そのうえで機械的性質に進み、引張強さ、耐力、伸びを確認します。
ここで見落としやすいのが、熱処理状態と試験片方向です。
板材では圧延方向との関係が結果に入ることがあり、棒材では採取方向や製造条件の読み違いがそのまま不適合につながります。
材料検査成績書と JIS の機械的性質表を突き合わせるときは、種類記号、熱処理状態、測定方向、試験規格の4点を先に並べて照合すると、数値だけを見て合否判断する失敗を避けられます。
現場では引張強さの値だけに目が行きがちですが、同じ MPa 表記でも試験条件が違えば同列には置けません。
試験方法の章も読み飛ばせない部分です。
引張試験をどの規格に従って行うか、試験温度をどう扱うか、表面検査や内部欠陥検査に非破壊試験を要求するかで、保証の意味が変わります。
さらに、表面・外観、寸法・許容差、内部性状試験、表示・製品保証の項目まで追うと、図面指示に対して規格票だけで足りる部分と、個別仕様で補うべき部分が見えてきます。
調達仕様で抜けやすいのは、機械的性質は書いてあっても、表面欠陥の許容や内部探傷の要否が未定義のまま流れてしまうケースです。
💡 Tip
規格票を読む順番は、適用範囲で形状を確定し、種類で材料を特定し、化学成分と機械的性質で材質を固め、試験方法と表面・寸法・内部性状で受入条件を詰める、という流れにすると実務でぶれません。
H 4600/H 4650の表で見るべき数値

JIS H 4600とJIS H 4650は、どちらもチタン及びチタン合金の展伸材を扱いますが、前者は板・条、後者は棒です。
実務での読み方は共通する部分が多い一方、表の意味は形状によって少しずつ変わるため、同じ材料名でもそのまま横滑りさせないことが前提になります。
表中の数値は形状や試験条件に依存するため、注記や脚注を見落とすと誤った前提で設計・受入を行うことになります。
JIS H 4600では、板・条に対して種類ごとの機械的性質表を読みます。
ここで追う数値は、引張強さ、耐力、伸びです。
板材ではこれに加えて、試験片をどの方向で採るかが解釈に関わります。
圧延材は方向性を持つため、仕様書側で方向指定があるなら、規格票の表と試験条件の対応まで見ないと整合しません。
TP270 や TP340 のような純チタンでは、強度帯の確認に加えて、成形を前提にした伸びの扱いが読めるかどうかが実用上の分かれ目です。
JIS H 4650では、棒材に対して同じく引張強さ、耐力、伸びが主軸になります。
たとえば TAB6400 は Ti-6Al-4V 系として読まれる代表例で、棒材の強度保証を見たいときの起点になります。
棒ではシャフト、ピン、締結部材、治具部品のように断面で荷重を受ける用途が多いため、引張強さだけでなく耐力の扱いが設計値と直結します。
Ti-6Al-4V は一般的な技術資料で 900〜1,170 MPa 級の引張強度帯として紹介されますが、実務で採否を決めるのは一般論ではなく、その棒材がどの熱処理状態で、どの試験条件で規格表を満たすかです。
ここで熱処理状態の確認が効いてきます。
状態が一致しない場合は、同一の種類記号であっても比較対象の数値帯が変わるため、受入は保留して当該材料の試験条件・状態の一致を確認する必要があります。
化学成分表の見方も H 4600 と H 4650 で基本は同じです。
純チタンなら純チタン系としての管理元素を見て、Ti-6Al-4V なら Al と V の含有で合金を識別します。
ここは材料名の確認欄であると同時に、溶接性や耐食性の傾向を読む欄でもあります。
純チタンは耐食用途での素直さがあり、Ti-6Al-4V は高強度用途の標準解として使いやすい一方、溶接や後工程まで含めた扱いは同列ではありません。
仕様書に溶接の有無が入っている案件では、機械的性質表だけでなく化学成分表まで戻って確認する流れになります。
規格票を開いたときに見るべき数値を絞るなら、H 4600 では板の方向性と伸び、H 4650 では棒の耐力と状態区分に比重を置くと、設計・調達の判断とつながりやすくなります。
どちらの表でも、数値単独ではなく、種類記号と熱処理状態が表の前提条件であることを外さない読み方が必要です。
成績書の状態区分(焼なまし、鍛造、冷間圧延など)が規格票の状態区分と一致しているかを必ず照合してください。
状態が一致しない場合は、同じ種類記号でも比較できる数値が異なるため、受入判断を誤る原因になります。
検査・試験項目の仕様書反映

規格票を読んで終わりにせず、仕様書へ落とし込む段階では、どの試験項目を受渡し条件にするかを明文化する必要があります。
ここで差が出るのは、化学成分と機械的性質だけで満足せず、試験方法、表面、寸法、内部性状まで拾えているかどうかです。
まず、化学成分と機械的性質を仕様書へ転記するだけでは不十分です。
引張強さ・耐力・伸びを要求する場合は、どの規格票のどの種類に基づくかに加え、試験規格(参照標準)、試験温度、引張試験の準拠方法および試験片の採取方向を仕様欄に明記し、合否判定の基準(最低値・判定手順)まで詰めてください。
表面に関する項目も、チタンでは見逃せません。
規格票には外観や表面の欠陥に関する扱いがあり、板なら傷や圧延起因の表面状態、棒なら切削・研磨前提か黒皮扱いかで受入判定が分かれます。
耐食用途では表面の連続性が効きますし、疲労を意識する部品では浅い傷でも見方が変わります。
したがって、仕様書側では「JIS 適合」だけで済ませず、表面の受入基準をどこまで規格準拠にし、どこから個別要求にするかを切り分けて記述するのが筋です。
寸法と許容差は、形状別規格の中でも調達トラブルになりやすい項目です。
板材では厚さや幅、棒材では直径や真直度のように、設計図の公差体系と JIS の製品公差がぶつかることがあります。
規格票の寸法許容差を受け入れるのか、追加加工前提で素材寸法を取るのかで見積条件も変わります。
ここを曖昧にしたまま発注すると、材質は合っていても素材として使えない、という事態が起こります。
仕様書には機械的性質だけでなく、表面の扱い(黒皮・研磨・表面欠陥許容)や要求する試験(渦流試験、水圧試験、超音波探傷など)を明記しておく必要があります。
ここを省略すると、見積の前提が揃わず後工程で手戻りが発生します。
内部欠陥に関する検査も、用途によっては規格票の既定だけでは不足します。
構造部材や高信頼用途では、超音波探傷などの非破壊試験を個別仕様で要求することがあります。
逆に、規格票に内部性状試験の一般的な扱いがあっても、案件側で非破壊試験の要否を明示しなければ、見積条件に乗らないことがあります。
したがって、機械的性質表の数値を満たすだけでなく、内部欠陥検査を受入条件に含めるかを仕様書で確定させる必要があります。
表示や製品保証の章も、調達実務では効きます。
材料記号、チャージ番号、規格番号、熱処理状態がどこまで表示され、どの書類で保証されるかが決まっていれば、受入時の照合作業が短くなります。
成績書と現品票の突合で迷わない仕様は、検査時間を削るだけでなく、後工程のトレーサビリティも保ちます。
規格票の表示項目をそのまま参照しつつ、案件で必要な帳票名まで合わせておくと、材料置換や取り違えを防ぎやすくなります。
仕様書へ反映する際の要点は、規格番号と種類記号を書くだけで完了と見なさないことです。
適用範囲で形状を固定し、化学成分と機械的性質で材質を決めたうえで、試験条件(試験規格・温度・採取方向)、表面処理・外観許容、寸法許容、公差、内部性状検査(必要な非破壊試験の種別)および表示・帳票の要件まで受入条件として連結して初めて、規格票が実務文書として機能します。
形状別・用途別の指定例

板材(H 4600)の指定例
以下は耐食用途の板材で実務的に使われる指定例です。
板材は、材質名だけでなく形状規格・種類記号・寸法・状態を一列で読める形にしておくと、設計と調達の間で意味がぶれません。
たとえば耐食用途の一般的な指定例としては、材質名に加えて規格番号や種類記号、寸法に加え表面処理や耐食性に関する条件を併記する方法があります。
JIS H 4600、TP340(純チタン2種)、t=3.0 mm、1000 mm × 2000 mm、焼なまし という書き方になります。
ここで H 4600 は板・条の規格、TP340 は純チタン2種の種類記号、t=3.0 mm と板寸法は素材形状、焼なましは受入状態を示します。
図面では材質欄に TP340 だけを書いてしまう例がありますが、それでは板材なのか棒材なのかが切れます。
仕様書や見積依頼書では、H 4600 まで含めて初めて発注条件として閉じます。
純チタン2種は耐食部材として板材で頻用されますが、板厚が薄い案件ほど熱処理状態や表面仕上げが加工後の性能に与える影響が大きくなります。
規格番号の確認にはJISC JIS検索が役立ちます。
板材の番号を確認せずに「チタン2種 t3」とだけ流すと、社内では通じても、外部の調達先では確認項目が増えます。
仕様欄を一行で完結させる癖をつけると、見積の往復が減ります。
棒材(H 4650)の指定例

棒材では、板材以上に寸法公差と熱処理状態が効いてきます。
代表的な指定例としては、材質の種類記号に続けて寸法公差の級別や許容範囲、熱処理の有無とその状態を明記することが挙げられます。
JIS H 4650、TAB6400(Ti-6Al-4V)、φ12 mm、公差等級指定、SHT/STA という形が基本です。
TAB6400 は JIS の種類記号として流通実務でも広く使われ、通称の 64チタンよりも図面・仕様書との接続が明確です。
Ti-6Al-4V は高強度用途の標準的な α+β 型合金として扱われ、丸棒からの削り出し部品、治具、構造部材で指定される場面が多くなります。
棒材で見落としが出やすいのは、外径だけ書いて公差等級を落とすケースです。
φ12 mm という数字があっても、どの精度帯の素材を受けるのかが抜けると、切削代の想定が設計側と加工側でずれます。
熱処理状態も同様で、TAB6400 とだけ書かれた見積依頼は、受入状態の確認が必ず差し戻しになります。
状態記号は規格票に従う必要があり、SHT/STA のような条件を要求するなら、その前提を仕様欄で明示しておくべきです。
棒材の強度差は、仕様の書き方ひとつで調達トラブルになります。
たとえば φ10 mm の丸棒を 1 m で見ると、TP340 の引張荷重の目安は約 27 kN、TAB6400 では約 70 kN 程度まで伸びます。
数字の差だけを見れば合金材が有利ですが、必要なのは「強い材料」ではなく「その状態で保証された棒材」です。
高強度を期待して TAB6400 を選んでも、状態欄が抜けていれば、その期待値は仕様書に固定されていません。
棒材ほど、材種名より状態名のほうが調達結果を左右します。
管材(H 4630/H 4631)の指定例

管材は、外径だけではなく外径×肉厚×長さまで書いて初めて形になります。
継目無管の指定例としては、材質記号・外径×肉厚×長さ・製造法(継目無)・検査基準などを併記する形が一般的です。
JIS H 4630、TP340(純チタン2種)、φ25 mm × 2.0 mm × 4000 mm、渦流試験実施、水圧試験実施 のように書くのが実務的です。
熱交換器用途であれば H 4631 を参照する整理になりますが、どちらにしても「チタン管」とだけ書いた仕様は情報が足りません。
継目無管か、熱交換器用かで見る規格が変わるためです。
管材では、試験要求を省略したまま話が進むと受渡し条件が曖昧になります。
とくに耐食設備や流体配管では、渦流試験や水圧試験を見積条件に含めるかどうかで、検査範囲が変わります。
ここが抜けると、材質は合っていても要求したい健全性レベルが仕様書に表れません。
実務では、管の案件ほど「寸法は書いてあるのに試験欄が空白」という見積依頼が出やすく、あとから検査条件を追加して再見積になる場面が多くなります。
純チタン2種の管は、耐食性を優先する設備部材で扱いやすい選択肢です。
海水や薬液接触の案件では、強度だけで Ti-6Al-4V に振るより、純チタン系で整理したほうが仕様全体が素直にまとまることがあります。
管材は成形・接合・検査の連携で評価されるので、材料名の強さよりも、どの規格のどの試験付きで納入されるかを書くほうが、設計仕様としての密度は上がります。
鍛造品(H 4657)の指定例

鍛造品になると、単純な寸法材ではなく形状図と品質要求を一体で指定する必要があります。
典型例は、形状図で公差を示すと同時に、内部欠陥許容基準や熱処理履歴、必要な検査項目を明確にすることです。
JIS H 4657、Ti-6Al-4V ELI、鍛造形状図支給、鍛流線要求あり、熱処理状態指定、超音波探傷レベル指定 という書き方です。
ここでは H 4657 が鍛造品の規格、Ti-6Al-4V ELI が低介在元素仕様の合金種、鍛造形状図が形状の基準、鍛流線要求と超音波探傷レベルが内部品質条件を示します。
鍛造品では、材料名と概略寸法だけでは情報が足りません。
削り出し用の棒材と違って、鍛流線をどの方向に流したいか、どの面を重要断面とみなすかで、鍛造方案そのものが変わるためです。
医療、低温機器、高信頼構造のように靱性を重視する案件では、Ti-6Al-4V ELI のような材料区分を選ぶ意味がありますが、その価値は形状図と検査条件を書いてはじめて仕様に定着します。
ELI とだけ書いても、鍛造形状や探傷条件が空欄なら、必要な内部品質は発注書に乗っていません。
鍛造品の見積で繰り返し起きるのは、熱処理状態と探傷レベルの記入漏れです。
鍛造ブランクの段階では通っていても、機械加工後に内部欠陥評価の前提が食い違うと、材料起因なのか仕様起因なのかの切り分けに時間を取られます。
鍛造案件では、形状図、鍛流線、熱処理、非破壊検査の4つを別々に考えず、ひとつの要求セットとして扱うほうが誤差が出ません。
見積仕様のチェックリスト

見積依頼書は、文章が上手であることより抜けなく埋まっていることが価値になります。
実務では、入力者によって書き方がぶれると、熱処理状態や等級の記入漏れが繰り返されます。
その再発を防ぐには、自由記述よりテンプレート化が効きます。
最低限そろえるべき4点は、JIS規格番号、種類記号、寸法、熱処理状態です。
用途によっては、ここに公差等級、試験項目、表面条件、非破壊検査を加えます。
見積仕様のテンプレートを一般化すると、次の並びが扱いやすくなります。
- JIS規格番号
- 種類記号
- 寸法
- 熱処理状態
- 必要に応じて公差等級
- 必要に応じて試験・検査条件
- 必要に応じて図面番号または形状図
この形にしておくと、板材なら H 4600 と TP340、棒材なら H 4650 と TAB6400、管材なら H 4630 と試験要求、鍛造品なら H 4657 と形状図・探傷条件、という整理で横展開できます。
実際の見積対応では、材種の記入漏れよりも、熱処理状態と等級欄の空白のほうが後戻りを生みます。
テンプレート側にその欄を固定しておくと、入力段階で空白が目に入るため、再発防止に直結します。
💡 Tip
見積仕様は「材料名を書く欄」ではなく、「受け取る製品条件を固定する欄」として設計すると抜けが減ります。JIS番号、種類記号、寸法、熱処理状態の4点が埋まっているかを見るだけでも、仕様の密度は大きく変わります。
規格の入手・閲覧方法や日本チタン協会|チタンの規格のような整理資料が役立ちます。
現場で本当に効くのは、情報を多く書くことではなく、形状ごとに必要項目を外さないことです。
板、棒、管、鍛造品で書式を変えすぎず、同じテンプレートの中で必要欄を追加する運用にすると、社内の図面・見積・成績書の突合も揃いやすくなります。
JISとASTMの対応で迷わないための比較表

JIS種類記号×代表合金名×ASTM Grade 対照表
海外図面ではASTM Grade 5、国内の受入れではTAB6400やTi-6Al-4Vという書き方が並び、同じ材料を指しているのか、別物なのかで手が止まりがちです。
ここは「JISの種類記号」「代表合金名」「ASTM Grade」を同じ行で見ると混線が減ります。
実務ではこの表を代表対応として使い、そこから形状別規格へ降りていく流れが最も事故が少なくなります。
| JIS種類記号 | 代表合金名 | ASTM Grade |
|---|---|---|
| TP270 | 純チタン1種 | Grade 1相当の代表対応 |
| TP340 | 純チタン2種 | Grade 2相当の代表対応 |
| 純チタン3種 | 純チタン3種 | Grade 3相当の代表対応 |
| 純チタン4種 | 純チタン4種 | Grade 4相当の代表対応 |
| TAB6400 | Ti-6Al-4V(64チタン) | Grade 5相当の代表対応 |
| Ti-6Al-4V ELI | Ti-6Al-4V ELI | Grade 23相当の代表対応 |
この対応は、海外材の呼称を国内図面へ読み替える入口としては有効です。
たとえば販売現場では TAB6400 をASTM B348 Gr.5と並記している例が見られ、棒材の文脈では Grade 5 と TAB6400 を対応づけて読む場面が実際にあります。
一方で、純チタン1〜4種と Grade 1〜4 の関係は業界で広く対比されるものの、提示された検索結果だけでは TP270 や TP340 に対する ASTM 番号の明示表は確認できていません。
そのため、表の読み方としては「おおむねこの列で突き合う」と捉えるのが適切です。
現場で混乱が起きやすいのは、材料名だけ合っていても、参照している製品規格が違うケースです。
海外図面に Grade 5 とだけ書かれていた案件を、国内では棒材として受け入れる整理をするとき、まず見るべきなのは JIS H 4650 のような形状別規格です。
板なら H 4600、鍛造品なら H 4657 へ移るので、Grade 5 という合金名の一致だけでは受入条件が固定されません。
JISC JIS検索で規格番号を確認したうえで、どの形状規格に乗せるのかを先に決めると、図面の読み替えがぶれません。
海外図面の Grade 5 指定を国内棒材 JIS で受けるときは、材料名の一致より先に、突合せ項目を並べて整理するのが定石です。
実務では、規格番号、Grade 表記、棒材なのか板材なのかという形状、焼なましなどの状態、機械的性質の保証値、どの試験規格で引張や検査を行う前提か、このあたりを1枚の比較表に載せるだけで認識差が目に見えて減ります。
Grade 5 と TAB6400 が近い対応に見えても、片方が棒、片方が鍛造、あるいは試験片条件が異なれば、成績書の比較はそのままでは成立しません。
💡 Tip
ASTM の Grade 名は合金の呼び名、JIS の H 4600 や H 4650 は形状別の製品規格、TP340 や TAB6400 はその中の種類記号、という3層で並べると、海外図面と国内調達票の食い違いを分解して読めます。
完全同等ではないときの確認ポイント

JIS と ASTM の対応表は便利ですが、同じ行に並ぶからといって完全同等とは限りません。
ズレが出るのは、合金名そのものより、どの製品形状を対象にした規格か、どの状態で機械的性質を保証しているか、どの版の規格を参照しているかという周辺条件です。
前述の通り、JIS 側は形状別規格で整理されるため、棒の TAB6400 と、別形状の Ti-6Al-4V 系材料を同列に扱うと読替えが粗くなります。
照合時に見るべき点は、次のように整理できます。
- 規格番号
ASTM B348 なのか、JIS H 4650 なのかで、対象製品の前提が変わります。
- Grade または種類記号
Grade 5、Grade 23、TP340、TAB6400 など、合金区分そのものを一致させます。
- 状態
焼なまし、熱処理状態、冷間圧延材か熱間圧延材かといった受渡し条件を揃えます。
- 機械的性質の保証値
引張強さ、耐力、伸びなど、成績書上で何を保証する契約かを確認します。
- 試験規格
引張試験や非破壊検査をどの規格・どの試験片条件で行うのかを突き合わせます。
ここで見落としやすいのが、図面上の表記が短いほど、比較に必要な情報が裏へ隠れることです。
Grade 5 とだけ書かれた海外図面は、材料選定の入口としては成立していても、国内受入れの仕様としては情報が足りません。
棒材受入れなら、JIS H 4650 の種類記号に落とし込み、さらに状態と保証項目まで展開してはじめて、見積・製作・検査が同じ前提に乗ります。
実務ではこの展開を省くと、ミルシートはあるのに比較表が作れない、あるいは成績値は並ぶのに試験条件が違って判定できない、という停滞が起こります。
規格の版も無視できません。
JIS の規格票は改正が入るため、社内標準が古い版の表記を引きずっていると、海外材の資料と突合せたときに試験項目や表記体系がずれます。
日本チタン協会|チタンの規格のような整理資料で全体像を押さえつつ、最終的には当該規格票の要求事項を行ごとに比較する、という順で読むと、対応表だけに頼った判断を避けられます。
要するに、対照表は「同じ材料かどうか」を一瞬で見るための道具であり、受入れ可否を決める表ではありません。
海外図面の Grade 5 を国内棒材で読む場面でも、TAB6400 という呼称に置き換えた時点で作業完了ではなく、棒材規格、状態、機械的性質保証、試験法まで展開して初めて比較が閉じます。
この順番で見ていくと、輸入材と国内材の資料を並べたときに、どこが一致していて、どこが未照合なのかが明確になります。
チタンの規格|一般社団法人日本チタン協会
www.titan-japan.comまとめ
規格番号は形状を示すJIS H XXXXであり、種類記号はTPやTABのように材料を示す記号、と分けて読むのが実務の起点です。
性能の可否は略称や通称ではなく規格票本文で確認し、海外材との比較ではASTM表記を併記すると調達・検査の突合せがぶれません。
図面や仕様書の最終点検では、規格番号の形式、種類記号、状態、試験の4点を見直すだけで、見積段階の手戻りが目に見えて減ります。
次に進める順番は明快です。
まず板・棒・管・鍛造の形状を確定し、そのうえで必要強度と使用環境から純チタンかTi-6Al-4V系を一次選定します。
見積依頼や図面記載では、JIS番号・種類記号・寸法・熱処理状態の4点セットを欠かさず並べると、社内外の認識差を抑えられます。
版年や詳細値はJISC JIS検索と日本規格協会 Webdeskで最終確認し、図面・仕様書へ反映してください。
これで「規格番号と材料記号の混同」が、実務上の指定ミスに直結する場面を避けられます。
金属材料工学の研究職を経て、チタン素材メーカーの技術部門で10年以上の実務経験を持つ。合金設計・熱処理・材料試験に精通し、JIS規格の策定にも関わった経験がある。
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