チタン眼鏡フレーム|素材選定・製造工程・接合
チタン眼鏡フレーム|素材選定・製造工程・接合
チタン眼鏡フレームは、軽いだけでなく、耐食性や肌への配慮まで含めて評価されますが、実務では「どのチタンをどの部位に使うか」で出来が変わります。現場ではテンプルのしなり量をβ型チタンで確保し、フロントは純チタンで質量と加工性の釣り合いを取る構成が採用されるケースが多く、
チタン眼鏡フレームは、軽いだけでなく、耐食性や肌への配慮まで含めて評価されますが、実務では「どのチタンをどの部位に使うか」で出来が変わります。
現場ではテンプルのしなり量をβ型チタンで確保し、フロントは純チタンで質量と加工性の釣り合いを取る構成が採用されるケースが多く、そこにTi-Ni系形状記憶合金やTi-6Al-4Vをどう差し込むかが設計の分かれ目です。
この記事は、眼鏡フレームを部品単位で見直したい設計者、調達担当、生産技術の担当者に向けて、純チタン(JIS 1種・2種)、β型チタン合金、Ti-Ni系形状記憶合金、Ti-6Al-4Vの使い分けを、板抜きやプレス、途中焼鈍、冷間鍛造、熱処理、接合、研磨、表面処理まで工程順に整理します。
記事は、公開されている工程事例(鯖江系の分業に関する報告)を軸に、難所になりやすい接合ではレーザー微細接合が工程を大きく削減した事例などを踏まえ、ろう付・抵抗接合・レーザーの選び分けを数値で整理します。
出典名を記載する場合は一次情報(報告ページや調査レポートのURL)を合わせて示してください。
表面処理も陽極酸化、KTL、IPを見た目だけで選ばず、自然酸化被膜の10〜300 nmという前提から設計判断につなげ、調達と検査で見落としやすいポイントまで実務目線で落とし込みます。
チタン眼鏡フレームに使われる素材の全体像

チタン眼鏡フレームでまず押さえたいのは、素材名が同じ「チタン」でも中身は一つではないことです。
材料選定の起点になる数字として見ると、チタン全般の比重は約4.5で、代表的なTi-6Al-4Vでも4.43 g/cm³です。
鋼材より軽い領域にあり、同等剛性を狙う設計でも質量低減の余地を取りやすいのが、眼鏡フレームで長く支持されてきた理由です。
そのうえで実務では、フロントの寸法安定、テンプルのバネ性、変形回復、接合や仕上げのしやすさを部位ごとに見分けて、純チタン、β型チタン合金、Ti-Ni系形状記憶合金、必要に応じてTi-6Al-4Vを使い分けます。
純チタン(JIS 1種・2種)の位置づけ
純チタンはJISで1種から4種に区分されます。
板・条は『JIS H 4600』、棒は『JIS H 4650』、線材は別規格で管理されるため、眼鏡部品を検討するときは「純チタン」という呼び方だけでなく、どの規格区分のどの形状材なのかまで見ておく必要があります。
規格の細かな成分値や機械的性質の正式値は規格票本文の確認が前提ですが、眼鏡用途で多く見かけるのは1種・2種です。
その理由は、延性と加工性のバランスにあります。
眼鏡フレームは、板抜き、プレス、途中焼鈍、曲げ、接合、研磨、表面処理まで工程が連続するため、材料が硬すぎると途中で割れや寸法ばらつきが出やすくなります。
日本チタン協会の規格整理でも純チタンの等級区分が確認でき、実際のフレームでは1種・2種が標準材として扱われる場面が多いです。
フロントリム、ブリッジ、クリングスのように、形状の安定と耐食性を両立したい部位ではこの選択が自然です。
純チタンの長所は、軽さや耐食性だけではありません。
ニッケルを主成分とする合金系ではないため、肌への配慮を前面に出した設計とも相性がよく、量産での実績もあります。
一方で、チタン材全般に共通する難しさとして、加工硬化やスプリングバック、接合時の熱影響は無視できません。
ある工程例のように、プレスを2回に分け、その間に焼鈍を挟む発想は、純チタンでも割れ防止と形状精度の両立に効いてきます。
純チタンは「やさしい材料」ではなく、工程設計が整って初めて安定量産に乗る標準材と捉えるのが実務的です。

規格詳細 | 日本規格協会
webdesk.jsa.or.jpβ型/near-β型チタン合金の位置づけ
β型チタン合金、あるいはnear-β型チタン合金は、眼鏡業界では主に高弾性・高バネ性を期待して使われます。
販売現場では「βチタン」と一括りに説明されがちですが、実際には系統が複数あるため、記事上では特定組成を断定するよりも、どの部位でどんな機能を持たせるかに焦点を当てるほうが整理しやすくなります。
向くのはテンプルのように繰り返し開閉され、外側へ広がる力も受ける部位です。
純チタンだけでテンプルのしなりを確保しようとすると、厚みや幅を増やして逃がす設計になりやすく、掛け心地や見た目の軽快さとの両立が難しくなります。
そこにβ型チタンを使うと、細身の断面でも弾性限の高い領域を取りやすく、復元力を持たせやすくなります。
設計現場でよく共有される定石として、薄肉テンプルのスプリングバック設計では、β型チタンの高い弾性限を前提にリム幅、肉厚、曲げRを詰めていく考え方があります。
単に「よくしなる素材」だから置き換えるのではなく、どこまで曲げても塑性変形に入れないかを見ながら断面を削っていく発想です。
ここを純チタンと同じ感覚で決めると、戻り量が足りずフィットが甘くなるか、逆に見込み違いで局所応力が上がり、曲げ起点で不具合が出ます。
β型は材料名というより、弾性設計の自由度を買う材料として理解したほうが実務に合います。
💡 Tip
テンプル材にβ型を使うときは、材質変更だけで解決したと考えず、曲げRと板厚の再設計まで含めて評価したほうが歩留まりが安定します。
加工面では、弾性特性を生かせる反面、成形後の戻りを読んだ治具設計が必要です。
接合や表面処理も含めて工程全体で見ると、β型チタンは「快適性を上げるための贅沢材」ではなく、薄肉化と耐久性を両立するための機能材という位置づけになります。
Ti-Ni系形状記憶合金(NiTi)の位置づけ

Ti-Ni系形状記憶合金、いわゆるNiTiは、形状回復と超弾性が持ち味です。
大きく曲げても元の形に戻る特性を活かせるため、スポーツ用途、子ども向け、あるいは変形リスクが高い部位で採用されます。
通常のバネ材が「たわませて支える」方向の材料だとすれば、NiTiは「大きく変形しても姿勢を戻す」方向で価値を出す材料です。
眼鏡でこの特徴が効くのは、持ち運びや着脱でフレームに無理な力が入りやすい場面です。
テンプル先やブリッジ近傍など、変形が繰り返される場所に使うと、外力を受けた後の戻りが安定します。
特許文献では、眼鏡部材として20%から50%の加工硬化条件や、−40℃〜50℃の使用温度域が示されており、単なる柔らかい金属ではなく、熱履歴と加工条件まで設計に組み込む前提の材料だと分かります。
一方で、NiTiはニッケルを含みます。
このため、肌に直接触れる部位での使い方や表面処理の設計では、アレルギー配慮を明記しておく必要があります。
RoHSの規制対象にニッケルは入っていませんが、それは電気電子機器の有害物質規制の話であり、皮膚接触部材の設計判断とは別です。
眼鏡フレームでは、NiTiを全面材として語るより、必要な機能を持つ局所材として扱うほうが誤解がありません。
NiTiは便利な万能材に見えますが、加工硬化と熱履歴の管理が甘いと、狙った回復挙動から外れます。
形状記憶や超弾性は素材名だけで自動的に得られる性質ではなく、加工条件まで含めて成立する性能です。
そのため、一般的な量産フレームでは純チタンやβ型チタンが主体になり、NiTiはスポーツ系や高変形対応の特殊機能材として差し込まれる構成が現実的です。
Ti-6Al-4V(ASTM Grade 5)の扱い方
Ti-6Al-4V の代表的特性は文献やメーカーの特性ページで確認できます。
記事中で特定のデータソース名を参照する場合は、該当ページの一次URLを明記するか、「処理業者・メーカーの特性ページ」といった一般表現に置き換えてください。
ただし、量産フレーム全体をこの材料で置き換える発想は、そのままでは成立しません。
純チタンでも加工工程は多く、眼鏡フレーム全体では約200工程に及ぶ例があるなかで、Ti-6Al-4Vはさらに難加工側へ寄ります。
プレス、切削、曲げ、接合、研磨のどこでも負荷が上がり、材料費よりむしろ加工費の増加が効きやすくなります。
高強度材を入れれば自動的に高品質になるわけではなく、歩留まりと工程能力まで含めて見ないと、採用メリットがコストを上回りません。
この材料が生きるのは、フレーム全体材よりも、局所的に高強度が欲しい設計です。
たとえば、断面を細く見せたいヨロイ周辺、意匠上の薄肉パーツ、あるいは強度余裕を確保したい小物部品では検討価値があります。
反対に、フロント全面や標準テンプルまで一律に使うと、成形・接合・仕上げの負担が増え、量産性との折り合いが崩れやすくなります。
この「強いが扱いは難しい」という位置づけは、消費者向けによくある「全部チタンなら同じ」という説明と最も差が出るところです。
眼鏡設計では、純チタンが標準材、β型が弾性強化材、NiTiが特殊機能材で、Ti-6Al-4Vは高強度が必要な局所部位や特殊モデルの候補材という並びで整理すると、材料選定の意図が分かりやすくなります。
素材別の特性比較と部位ごとの使い分け

比較表:4材料×7指標
| 材料 | 重量(比重) | 強度(代表値/規格値の扱い) | 弾性 | 耐食性 | アレルギー配慮 | 加工性 | 典型使用部位 |
|---|---|---|---|---|---|---|---|
| 純チタン(JIS 1種・2種) | 約4.5 g/cm³ | JIS H 4600 の1種相当例では引張強さ 340〜510 MPa、耐力 215 MPa以上、伸び 23%以上 | バネ性は合金より控えめ。塑性加工との両立に向く | 高い。表面酸化被膜で汗・湿気環境に対応しやすい | 高い。ニッケルフリー構成にしやすい | 難加工材ではあるものの、眼鏡用途では成形・接合の実績が厚い | フロント、ブリッジ、クリングス、基本構造部 |
| β型チタン合金 | 約4.5 g/cm³ | 公開規格値を一律に置けないため代表値は非公表。純チタンより高い弾性限を前提に使われる | 高い。しなりと復元力を取りたい部位に向く | 高い | 比較的高い | 成形後の戻り管理、熱履歴管理が必要 | テンプル、バネ性が必要な細身部材 |
| Ti-Ni系形状記憶合金 | — | 公開特許では加工硬化 20%〜50% の条件事例あり。眼鏡では強度値より機能発現を重視 | 超弾性・形状回復が特徴。大きな変形を吸収できる | 実用上は良好だが、仕上げ設計まで含めて考える必要がある | Ni含有のため配慮が必要 | 加工硬化と熱履歴の管理が難しい。接合条件も限定されやすい | スポーツ用途、変形を受けやすい部位、特殊テンプル |
| Ti-6Al-4V | 4.43 g/cm³ | 引張強度 895 MPa以上、耐力 828 MPa級、伸び 10〜14% の代表値 | 高強度だが、眼鏡で求める「しなり」はβ型材とは性格が異なる | 高い | 比較的高い | 4材の中では工程負荷が重い。切削、穴加工、接合後仕上げまで難度が上がる | 高応力の局所部、薄肉化を狙う特殊部位、採用候補材 |
純チタンは標準材、β型チタン合金は弾性強化材、Ti-Ni系は機能材、Ti-6Al-4Vは局所高強度材という役割分担が示されており、部位ごとに適材を割り当てると量産の歩留まりと装用感を両立しやすくなります。
加工面では、数値上の強度が高い材料ほど有利とは限りません。
眼鏡は約200工程におよぶ精密製品で、板抜き、途中焼鈍、接合、研磨、表面処理が連続するため、後工程まで含めた安定度が効きます。
現場では、クリングスのような細径線材部品になると、純チタンの成形とろう付けの実績が一段厚く、量産での寸法の揃い方にも差が出る場面があります。
設計段階でこの差を無視すると、図面上では成立しても量産で手直しが増えます。
接合との相性も見逃せません。
JSTの『眼鏡フレームの新しい溶接技術』では、レーザー微細接合によって工程数を約4割削減し、熱影響部を約88%ヒンジ周辺や異材接合を含む部位では、材料そのものの強度だけでなく、どの工法で熱を入れるかまで含めて比較するのが実務的です。
Ti-Ni系形状記憶合金には、使用温度域の見方も必要です。
公開特許では眼鏡部材として −40℃〜50℃ が想定されており、常温近辺での超弾性を前提にしていることが読み取れます。
寒冷環境や高温環境まで含めた設計では、単なる「よく戻る材料」として扱わず、熱履歴と使用温度をひとまとまりで見る整理が欠かせません。

眼鏡フレームの新しい溶接技術|ナノテクノロジー・材料|事業成果|国立研究開発法人 科学技術振興機構
www.jst.go.jp部位別マトリクス:フロント/テンプル/クリングス/ヒンジ
材料選定を部位単位で考えると、評価軸の優先順位が変わります。
フロントでは軽さと接合性、テンプルでは弾性、クリングスでは細線の成形安定、ヒンジ周辺では接合と局所強度が支配的です。
そこで、主要4部位について、設計因子の優先度と推奨材料の組み合わせをマトリクスで整理します。
| 部位 | 軽さ | 弾性 | 接合性 | 表面処理適性 | 推奨材料 | 使い分けの考え方 |
|---|---|---|---|---|---|---|
| フロント/ブリッジ | 高 | 中 | 高 | 高 | 純チタン、Ti-6Al-4V | 標準構成は純チタン。薄肉化や局所高強度を狙う場合にTi-6Al-4Vを候補化 |
| テンプル | 高 | 最優先 | 中 | 高 | β型チタン合金、Ti-Ni系形状記憶合金 | 日常用途はβ型材、変形回復を強く求める用途ではTi-Ni系 |
| クリングス | 中 | 中 | 最優先 | 中 | 純チタン | 細径線材の成形、位置決め、ろう付け実績まで含めると純チタンが中心 |
| ヒンジ・ネジ周辺 | 中 | 中 | 最優先 | 中 | 純チタン、Ti-6Al-4V | 母材は純チタンが基本。断面を絞る設計や局所負荷が高い場合にTi-6Al-4Vを検討 |
フロントは外観面積が大きく、プレス後の平面度や表面処理の均一性が目につく部位です。
このため、軽さと耐食性に加え、接合時の熱影響が小さく収まる材料が有利になります。
標準的には純チタンが収まりやすく、ブリッジ周辺で断面を詰めたい場合だけTi-6Al-4Vを使う構成が現実的です。
Ti-6Al-4Vは 4.43 g/cm³ と軽量ですが、眼鏡フロントではその利点より加工負荷の増加が先に出ることもあるため、全体材ではなく局所材として見た方が設計判断に合います。
テンプルは評価軸がはっきりしていて、弾性が最優先になります。
開閉の繰り返しで塑性変形に入らず、顔幅差を吸収しながら戻ることが求められるため、β型チタン合金の出番が多くなります。
細身シルエットでも復元力を持たせやすく、掛け心地と意匠を両立しやすいからです。
さらに大きな変形回復まで求めるスポーツ用途ではTi-Ni系形状記憶合金が候補になりますが、弾性だけでなく皮膚接触条件も同時に整理する必要があります。
クリングスは小部品ですが、実際には量産安定を左右しやすい部位です。
線径が細く、鼻当てとの位置関係も厳しいため、成形後の寸法ばらつきと接合後のズレが目立ちやすくなります。
現場感覚では、細径線材のクリングスは純チタンの方が工程が落ち着きやすく、成形とろう付けの履歴が蓄積されている分、量産での安定度に軍配が上がる場面が多く見られます。
β型材やTi-Ni系をここに広く展開するより、まず純チタンで基準工程を組む方が歩留まりを読みやすくなります。
ヒンジとネジ周辺は、局所応力と接合の両方を背負う部位です。
小型ねじ、座面、ろう付け部、溶接熱影響部が近接するため、母材の強度だけでなく、接合後にどれだけ寸法と外観を保てるかが効きます。
母材としては純チタンが中心ですが、断面を絞りたい設計ではTi-6Al-4Vの高強度が効くことがあります。
材料を高強度化すると加工と仕上げの難度が上がるため、ヒンジ全体ではなく応力集中するピン周辺や薄肉部だけに限定して使う考え方の方が破綻しにくい設計になります。
表面処理適性も部位で見え方が変わります。
フロントやテンプルは陽極酸化や塗装系コーティングの色調差が見えやすく、前処理の均一性が外観に直結します。
チタンの陽極酸化は酸化被膜厚さ 10〜300 nm 程度の制御で色が変わるため、部位ごとに母材や研磨状態が揃っていないと色差が残ります。
ヒンジ周辺は可動部のため、色調よりも被膜の追従性と密着を優先して考える場面が増えます。
アレルギー配慮

眼鏡フレームでのアレルギー配慮は、素材名だけで判断するより、どの部位が皮膚に長時間触れるかで整理した方が実務に直結します。
鼻周り、耳周り、こめかみ付近は接触時間が長く、汗の影響も受けやすいため、純チタンと比較的アレルギー配慮の取りやすいチタン系材料が優先されます。
純チタンが眼鏡用途で広く使われる背景には、この接触部で扱いやすい点があります。
注意が必要なのはTi-Ni系形状記憶合金です。
Niを含むため、超弾性や形状回復の利点があっても、皮膚長時間接触部へそのまま広く使う設計は慎重に考える必要があります。
採用する場合は、テンプル芯材など接触条件を限定する、コーティングを前提にする、あるいは接触部のみ純チタンなどの代替材に切り分ける設計が現実的です。
ℹ️ Note
Ti-Ni系形状記憶合金は、変形回復を優先したい部位では有効ですが、鼻パッド周辺や耳掛け先端などの長時間接触部では、コーティング前提の設計や純チタンへの置換を含めて整理した方が、材料特性とアレルギー配慮の両立を図れます。
この観点では、フレーム全体の材質表示だけでは情報が足りません。
たとえば「チタンフレーム」であっても、テンプルの芯材、ヒンジ部の別材、表面処理の有無で接触条件は変わります。
設計・調達の場面では、皮膚接触部を純チタン系で統一し、機能材は非接触部または限定接触部に寄せる構成の方が、仕様の説明も明快になります。
耐食性とアレルギー配慮は別項目ですが、眼鏡では連動して考える場面が多くなります。
汗や皮脂への暴露で表面状態が崩れると、接触部の快適性や外観維持にも影響するためです。
純チタンやTi-6Al-4Vは耐食性そのものは高い一方、Ti-Ni系は機能材としての利点を活かしつつ、表面設計まで含めて採用範囲を絞る方が、設計意図と使用実態が一致しやすくなります。
チタン眼鏡フレームの代表的な製造工程

板抜き・プレスと途中焼鈍
チタン眼鏡フレームの量産は、見た目よりずっと長い工程列で進みます。
代表的な流れを工程順に並べると、素材準備、板抜き・プレス、途中焼鈍、線材加工または冷間鍛造、微細加工(穴あけ・タップ)、熱処理、バレル研磨、接合、表面処理、検査、組立・調整という構成になります。
フロントのような板材主体の部品では、このうち前半の板抜きとプレス設計が外観と歩留まりをほぼ決めます。
素材準備では、板材なら『JIS H 4600』系の板・条、棒材や線材系なら規格系統を分けて入れます。
ここで板厚公差や表面仕上げが後工程の色調や平面度に響くため、単に「チタン材を入れた」で済ませないのが実務です。
チタン表面には自然酸化被膜があり、その厚さはおおむね 10〜300 nm の範囲で変化します。
前処理前の状態差が残ると、後の陽極酸化や塗装系被膜で色差の起点になります。
板抜きは、フロント外形やリム、飾り形状を板から打ち抜く工程です。
チタンは軽くて耐食性は高い一方、プレスでは弾性戻りと割れを同時に見ないと形が決まりません。
現場では一発で最終形状まで持っていくより、荒取りと仕上げ成形に役割を分けた方が安定します。
チタンクリエーター福井の事例でも、プレス2回と中間焼鈍を組み合わせて、初回プレスで大まかな輪郭を作り、途中焼鈍で加工硬化をいったん整え、次のプレスで鼻側の細かな起伏やリム周辺の寸法を詰める構成です。
途中焼鈍を挟む理由は明快で、チタンは加工が進むと局所的にひずみが蓄積し、そのまま次工程へ送ると角部や狭幅部で割れが出やすくなるからです。
特にブリッジ周辺やヨロイ根元のように断面変化が急な部分では、前工程の残留応力が次工程の不良として噴き出します。
中間焼鈍を入れると、次の成形で材料が無理に抵抗せず、金型側が狙った細部を拾いやすくなります。
設計側から見ると、急激な段差やシャープすぎる内Rを避けるだけでも、この工程の安定度は変わります。
プレス後は離型剤や打ち抜き油、微細な金属粉が残ります。
ここを曖昧にしたまま穴あけや接合に進めると、工具寿命だけでなく表面処理の密着にも影響が出ます。
板抜きとプレスは単独工程ではなく、後続の洗浄、酸洗、微細加工と一体で設計する工程だと見た方が実際のものづくりに近いです。
線材加工・冷間鍛造の使いどころ
公開事例の製造工程紹介に準じた分業・工程分割の観点から、線材加工と冷間鍛造がどのように分岐工程として積み重なるかを解説します。
外部レポートを出典に用いる場合は、可能な限り一次出典URLを明示してください。
線材加工は、細いチタン線を曲げ、つぶし、先端形状を整えながら所定のバネ性と位置精度を出す工程です。
クリングスのような小部品では、わずかな曲げ戻りでも鼻パッドの左右差につながるため、曲げ順と保持治具の考え方がそのまま外観品質になります。
純チタンはこの種の部品で実績が厚く、工程設計の蓄積が多い材料です。
βチタン系や特殊合金では弾性設計の自由度は上がりますが、成形後の戻り管理は別途詰める必要があります。
冷間鍛造は、ヒンジ座や飾りカシメ部のように、局所的に断面を太らせたい、穴周辺の肉を確保したい、切削量を減らしたい場面で効きます。
材料を削り捨てるのではなく、塑性流動で形を作るため、量産では寸法の基準面を作りやすく、後工程の加工代も抑えられます。
小物部品に冷間鍛造を入れると、穴位置の基準や接合面の座りが整うので、結果として接合作業のばらつきが減ります。
微細加工の工程では、ヒンジ周辺で一般的に M1 程度の微小ねじが絡むことが多く、M1 の標準値(ピッチ 0.25 mm、下穴径 0.77 mm)は工具メーカー資料で一般に示されています。
M1.2 / M1.4 といった細分類の推奨下穴径やタップ条件は、母材やタップ種(挽きタップ/成形タップ等)、めねじ精度に依存するため、該当する工具メーカーの下穴表(例: YAMAWA 等)を一次出典として参照して仕様化してください。
微細加工後には熱処理が入ることがあります。
目的は部品全体を硬くすることではなく、成形で入った応力を整え、寸法の落ち着きを出すことです。
熱履歴が動くと、その後のバレル研磨量や接合治具への収まりも変わるため、線材加工と冷間鍛造は単独最適ではなく、後ろの熱処理・研磨とつながった工程として見ます。
洗浄・酸洗・前処理の重要性

チタンフレームで外観不良や色ぶれが出ると、陽極酸化や塗装だけが原因に見えがちですが、実際にはその手前の洗浄と酸洗で勝負が決まっていることが多いです。
プレス油、離型剤、研磨コンパウンド、接合後の酸化スケールが少しでも残ると、表面処理の密着や発色が揃いません。
工程設計の段階で離型処理、洗浄、酸洗を織り込んでおかないと、後工程で帳尻を合わせる構成になります。
離型処理は、金型からの抜けと表面保護のために必要ですが、使い方を誤ると後で最も厄介な残渣になります。
プレス直後に部品表面へ均一に残るならまだ管理できますが、曲げ谷部や微細凹部に偏ると、そのまま洗浄むらになります。
洗浄は脱脂だけでなく、微細部に残った離型剤や研磨カスを確実に落とすことが役目です。
続く酸洗では、自然酸化膜や加熱で成長した表面層を整え、後処理が均一に載る土台を作ります。
陽極酸化の発色は、透明な酸化被膜の干渉色で決まり、着色レンジは 10〜300 nm 程度の膜厚制御に依存します。
だからこそ、前処理で表面状態が揃っていない部品は、同じ電圧条件でも色が揃いません。
中間膜厚域では、膜厚のばらつきがわずかでも見た目の色差に直結します。
現場感覚では、膜厚を数nm単位で詰める以前に、洗浄と酸洗の再現性が取れているかの方が効きます。
ここが甘いと、後から電圧や時間だけ調整しても色ぶれは消えません。
前処理はKTL透明ラッカーやIP/PVD系でも共通の注意点があります。
KTLでアノダイズ色の上に透明ラッカーを重ねる事例では、焼付け工程を設けることがあり、事例によっては焼付け時間が約20分と報告されることもあります。
ただしこの具体値は処理業者・処方・装置に依存するため、採用時は必ず該当の一次出典(処理業者の仕様書や事例ページのURL)を確認し、焼付条件を仕様化してください。
ここへ入る前の洗浄品質が外観保持の前提になります。
バレル研磨の位置づけも誤解されやすいところです。
バレルは「とりあえず光らせる」工程ではなく、面粗さ、エッジの立ち方、後工程での触感まで調整する工程です。
熱処理後に入れる場合は、治具への当たり方と目標面粗さを見ながら処理時間を管理します。
時間を長く取ればよいわけではなく、面がだれて穴入口や接合面まで崩せば、組立精度を落とします。
微小タップ前のメディア選定の話が効くのもこのためで、研磨条件は外観だけでなく機能寸法と一体です。
💡 Tip
前処理の設計では、プレス離型剤の種類、洗浄液の更新頻度、酸洗後の保持時間を一つの工程票にまとめておくと、表面処理だけ別管理になるのを防げます。チタンは表面反応が速いため、前処理と表面処理を工程的に切り離すと色安定性が崩れやすくなります。
多工程・分業(約200工程/5ヶ月)の設計影響
公開された分業型の事例では、メタルフレームが約200工程、具体的に言及する際は該当ドキュメントのURLを注記して一次情報へアクセスできるようにしてください。
たとえばヒンジ周辺で断面を攻めた意匠を入れると、プレス段階では形が出ても、穴あけ・タップで工具剛性が足りず、接合では熱で引かれ、バレルでエッジが崩れ、組立で芯ズレが残ることがあります。
逆に、接合代やタップ座をほんの少し確保するだけで、後ろの工程が一気に安定するケースもあります。
多工程品では、単品図面上の美しさより、どの工程で基準を持たせるかの方が品質とコストに効きます。
接合工程も代表例です。
従来のろう付や抵抗接合は実績が厚い一方、局所の熱変形と酸化管理が課題になります。
これに対してJSTの新しい溶接技術では、レーザー微細接合によって工程を約4割減らし、熱影響部を約88%眼鏡のような薄板・細線の複合体では、接合そのものの強さだけでなく、接合後にどれだけ研磨・再仕上げを減らせるかが効きます。
微細接合を前提に設計すると、接合代、位置決め精度、治具アクセスの考え方まで変わります。
組立は最終工程に見えて、実際には各工程の誤差を引き受ける場所です。
フロントとテンプルの開閉トルク、左右の開き角、鼻パッドの当たり、玉型の対称性は、単独工程ではなく累積誤差の結果として現れます。
だからこそ、設計では「最後に調整で合わせる」のではなく、どの工程でどの誤差を吸収するかを決めておく必要があります。
鯖江系の分業構造では、各社が得意工程を持つ反面、工程間の受け渡し寸法と表面状態の指定が曖昧だと全体最適になりません。
この多工程構造を前提にすると、チタン眼鏡フレームの製造は一連の加工法の寄せ集めではなく、工程間のつながりを設計する仕事だと見えてきます。
素材準備から板抜き、途中焼鈍、線材加工、微細加工、熱処理、バレル研磨、接合、表面処理、検査、組立までの流れを一本で捉えると、どこで不良が生まれ、どこで未然に潰せるかが読みやすくなります。
接合技術の要点:ろう付・抵抗接合・レーザー微細溶接

抵抗ろう付/抵抗接合:長所と限界
眼鏡フレームの接合で従来から使われてきたのが、抵抗ろう付や抵抗接合です。
電極で部材を保持し、通電によるジュール熱で接合部を加熱する考え方なので、設備としての実績が厚く、ヒンジ周辺やクリングスのような小部品の固定でも運用しやすい工法です。
ろう材を介して接合できるため、母材同士を溶かし切らずに組める点も現場では扱いやすいところです。
眼鏡フレームは薄板と細線の組み合わせが多く、ここで抵抗ろう付の弱点が出ます。
熱源そのものは局所でも、部材断面が小さいぶん熱が周囲へ回りやすく、接合点の近傍だけでなく、曲げ形状や意匠面まで熱履歴を引きずりやすくなります。
チタンは表面状態が外観品質に直結するので、接合後に酸化色が残る、前処理で整えた面が戻る、後の陽極酸化や透明ラッカーで色差として表面化する、といった流れになりがちです。
とくに細線デザインではこの差が目立ちます。
φ0.8 mm級の線材を含む構成では、接合そのものは成立しても、後で反り矯正が必要になり、その修正でさらに表面を触ることになります。
現場では、ここで再研磨まで連鎖すると工数よりも歩留まりの方が先に悪化します。
抵抗ろう付が悪いのではなく、熱が回った後の矯正と外観戻しまで含めると、部品が細くなるほど不利になるという整理です。
抵抗接合を選ぶ場面では、接合強度だけでなく、どこまで熱が広がるかを先に見ておく必要があります。
設計の順番としては、接合方法を後工程のあとに決めるのではなく、接合を先に決めてから表面処理条件や最終寸法の余裕を見る方が実務に合います。
接合後に色戻りが出る部位なのか、矯正代を残せる形状なのか、研磨で逃がせない見付け面なのかで、同じフロント構造でも選択は変わります。
レーザー微細溶接:入熱制御と品質改善効果
レーザー微細溶接は、眼鏡フレームのような小型・薄肉部品に対して、入熱を狭い範囲に閉じ込められる点が最大の特長です。
微小スポットで必要箇所だけを加熱できるため、抵抗ろう付と比べて母材全体へ熱を引かせにくく、接合周辺の歪みや表面変化を抑えやすくなります。
意匠面の近くに接合点がある設計ほど、この差がそのまま外観不良率の差になります。
JSTの眼鏡フレームの新しい溶接技術では、レーザー微細接合によって溶接工程数を従来比で約4割削減し、熱影響部を約88%低減のは、単に溶接機が新しいという話ではなく、接合後の修正工程まで含めたプロセス全体が軽くなるということです。
眼鏡では接合そのものより、接合後に発生する曲がり直し、面修正、再研磨、再表面処理が重荷になりやすく、そこが削れる意味は大きいです。
現場感覚でも、細線意匠をレーザー微細溶接に切り替えると、接合後の反り矯正が減り、研磨で面を追い込む回数も落ちる傾向があります。
φ0.8 mm級の線材では、わずかな反りでも正面視の印象が崩れますが、局所入熱で収まるとその手戻りが出にくくなります。
結果として、接合工程単体のタクトよりも、後段の修正負荷が下がることの方が効いてきます。
レーザー微細溶接は品質改善の方向も明確です。
熱影響が狭いと、接合近傍の機械特性変化を抑えやすく、色戻りや酸化痕の範囲も限定されます。
後工程で陽極酸化をかける部品では、接合部まわりの表面状態が揃いやすくなり、色差の管理にもつながります。
KTL透明ラッカーやIP/PVDのように下地の均一性がそのまま外観へ出る工程でも、接合部だけが浮く現象を抑えやすくなります。
もちろん、レーザーなら無条件で置き換えられるわけではありません。
位置決め精度、隙間管理、治具の再現性が不足すると、微小スポットの利点がそのまま不安定さに変わります。
ただ、眼鏡のように部材が小さく、見た目と寸法の両方が厳しい製品では、入熱の総量を減らせること自体が設計自由度に直結します。
接合方法を早い段階でレーザー前提にしておくと、接合代の置き方、見付け面との距離、後仕上げの逃がし方まで先回りして決められます。
異種材料接合の注意点

眼鏡フレームでは、同じチタン系でも材料を混ぜて使うことが珍しくありません。
たとえば、しなりが欲しい部位にβ型チタン線材、形状を持たせたい側に純チタン板を組み合わせる構成は実務的ですし、特殊用途ではTi-Ni系部材が入ることもあります。
ただし、この組み合わせは材料選定より接合条件の設計の方が難所になります。
β型チタン線材と純チタン板の接合では、まず熱の入り方が揃いません。
線材は断面が小さいため先に温度が上がりやすく、板側は熱を逃がす側に回ります。
抵抗ろう付ではこの差がそのまま濡れ広がりや歪みの差となって現れ、線側だけが先に熱履歴を強く受けることがあります。
バネ性を残したい部位でこれが起きると、設計時に見込んだ復元挙動から外れます。
こうした組み合わせでは、ろう材の流れ方だけでなく、どちらの母材へ熱を入れるのかを治具側で決めておく必要があります。
Ti-Ni系部材はさらに注意が必要です。
前段で触れたように、Ti-Ni系は熱履歴の影響を受けやすく、単なる金属部材として接合条件を当てると、機能部として残したい特性を損ねます。
接合部の強度だけを見て条件を上げると、超弾性や形状回復の前提が崩れ、完成後の掛け心地や復元性に跳ね返ります。
Niを含む材料なので、母材構成、ろう材選択、表層状態の扱いを一体で見る視点も欠かせません。
異種材料接合で詰めるべき論点は、実務では次の3点に集約されます。
- ろう材の選択:母材とのぬれ性だけでなく、接合後の色調、後処理との整合、界面に脆い層を作らないかまで見る必要があります。
- 界面管理:酸化膜、微細な隙間、前処理残渣があると、接合強度より先に外観と再現性が崩れます。チタン表面は自然酸化膜を持つため、接合直前の状態づくりがそのまま結果に出ます。
- 後工程との整合:接合部だけ表面反応が変わると、陽極酸化や透明ラッカーで色差として現れます。見付け面に近い接合では、この影響を図面段階で織り込んでおく必要があります。
💡 Tip
異種材を含む眼鏡フレームは、材料表で選定を終えず、接合方法を先に仮決めしてから表面処理と最終寸法を逆算する流れにすると、試作で起きる色差と反りの手戻りを減らせます。
設計判断の早期化もここで効きます。
異種材接合は、試作の後半で工法を入れ替えると帳尻が合いません。
接合方法が変われば、熱影響の範囲が変わり、矯正代も変わり、表面処理前の面品質も変わるからです。
眼鏡フレームでは接合が単独工程ではなく、外観と機能の分岐点になっているため、材料選定と同じ重さで接合方法を前倒しで決める方が、結果として工程全体が安定します。
表面処理と意匠品質:陽極酸化、KTL、IPコーティング

陽極酸化:発色と前処理管理
チタンの陽極酸化は、塗料で色を載せる処理ではありません。
表面にできる透明な酸化被膜の厚さで光の干渉条件を変え、その結果として色が見えます。
metal-machining-costdownなどの技術解説で示されている通り、着色に関わる酸化被膜はおおむね 10〜300 nm の範囲で扱われ、この薄膜の差が青、黄、紫系の見え方を分けます。
金属感を残したまま発色できるのが強みで、眼鏡フレームではチタンらしい質感を活かしたい意匠と相性が良いです。
現場では「電圧を合わせれば同じ色になる」というほど単純ではありません。
色むらを抑える鍵は、通電条件の前に前処理を揃えることです。
粗化のばらつき、酸洗不足、洗浄残りがあると、自然酸化膜や微細な表面状態が部位ごとに変わり、同じ電圧をかけても見え方が揃いません。
特にブリッジまわりや智元のように加工履歴が重なりやすい部位では、研磨目の方向差や接合後の表面変質がそのまま色差になります。
前段で触れた接合部近傍の熱影響も、ここで外観差として表面化しやすいのが利点です。
工程管理の中心になるのは、粗化・酸洗・洗浄の再現性と、陽極酸化時の電圧・時間の管理です。
電流分布や固定治具の当たり方まで含めて揃えていくと、ロット内の色差は目に見えて減ります。
実務では、膜厚そのものを直接見るというより、処理前面粗さ、液管理、通電条件、治具位置をまとめて管理項目にした方が歩留まりに効きます。
外観品位を重視するモデルでは、分光測色からΔE00で見る考え方も有効で、高品位外観の目安としては ΔE00で1〜2程度 に収める運用がよく使われます。
膜厚換算を厳密に一般化することはできませんが、中間色域では数nm単位の差が見え方に跳ね返るため、電圧だけでなく前処理条件票の詰め方が結果を分けます。
注意したいのは、陽極酸化の色が「剥がれにくい」一方で、皮膜損傷や局所摩耗に対して無関係ではないことです。
鼻パッド周辺、テンプル内側、工具当てを受けやすいヒンジ近傍では、擦過傷や当て傷で見え方が変わることがあります。
汗環境でも母材としてのチタンは強いのですが、外観の観点では皮脂や汗が付着した状態で色の深みが変わって見える場面があり、青や紫系の濃色ほどその差が気になりやすいのが利点です。
耐食そのものと、見た目の安定を分けて考える視点が必要になります。
KTL/透明ラッカー:指紋・外観保護の設計意図
アノダイズ後にKTL透明ラッカーを施し、処方や装置により焼付け時間は変わり、事例によっては約20分と報告されることもありますが、この値は一般値ではありません。
KTLは電着塗装なので、複雑形状でも膜の回り込みが取りやすく、智元やヒンジまわりの入り組んだ部位でも比較的均一な保護層をつくれます。
透明ラッカーを重ねると、アノダイズ色そのものを変えるというより、色の見え方を安定させる役割が出ます。
皮脂が付いたときのテカり方が落ち着き、拭き取り後の面の戻りも揃いやすくなります。
皮脂が多い使用環境では、アノダイズ単体よりもアノダイズ+透明ラッカーの方が、指紋跡の残り方が目視で少ない傾向があります。
量産評価のような定量試験ではなく現場で完成品を見比べた感触ですが、店頭展示や試着の繰り返しを想定するモデルではこの差が効きます。
もちろん、保護層を足せば何でも解決するわけではありません。
KTLや透明ラッカーは工程が増える分、焼付条件や前処理の整合が外観に出ます。
下地の洗浄が甘いと密着不良や微小なはじきが出ますし、焼付け後に異物を抱き込むと、透明層なのに面の乱れが目立ちます。
アノダイズの色むらを後工程で隠す用途には向かず、前工程で整えた外観を保護するという位置づけで考えるのが実務的です。
設計意図としては、金属感を保ちながら指紋耐性と色の安定を足す処理、と整理するとわかりやすいのが利点です。
💡 Tip
皮脂接触が多いセルフレーム併用モデルや、テンプル内側に手が触れやすい設計では、陽極酸化単体より透明ラッカー併用の方が、展示後の拭き上げで面の印象が揃います。見栄えの差は派手ではありませんが、量販店頭では積み重なる差になります。
IP/PVD:密着性と色安定性の検査観点

IPはPVDの一手法で、蒸発・イオン化した材料を基材表面に成膜して色や機能を与える処理です。
TiNのような金色系から黒系まで色の自由度が高く、陽極酸化では出しにくい色域を狙えるのが利点です。
ブランド側が強い色テーマを持つモデルや、同一シリーズで複数色展開したい製品では、IP/PVDの選択肢は外せません。
その代わり、検査観点は陽極酸化より厳しくなります。
IP/PVDは「着色被膜を付ける」方式なので、下地との密着が崩れると外観不良が直結します。
問題になりやすいのは、密着不良、ピンホール、色むらの3点です。
密着不良は前処理不足や表面活性のばらつきが原因になりやすく、ピンホールは微細な異物や成膜条件の乱れで出ます。
色むらは基材表面の研磨ムラ、治具配置、成膜中の入射条件差が影響します。
細身のテンプルや三次元形状の強いフロントでは、部位ごとの見え方差が出やすく、正面視だけでなく斜め視でも確認する必要があります。
設計段階では、まず下地面の要求水準を処理前から決めておくことが欠かせません。
研磨目をどこまで消すか、エッジを立てるのか丸めるのか、接合部近傍を見付け面からどれだけ逃がすかで、成膜後の印象は変わります。
検査では、色そのものだけでなく、密着、ピンホール、汗環境での変色や局所腐食の出方まで見ます。
人工汗環境は眼鏡では外せない視点で、母材チタンが強くても、被膜欠陥があると汗由来の汚れや局所的な外観変化が先に表に出ます。
特に鼻周辺や耳掛け部のように汗と皮脂が集中する場所は、意匠評価と耐食評価を分けずに見るべき箇所です。
補修性もIP/PVDの悩ましい点です。
陽極酸化は再処理で色を整える余地がありますが、IP/PVDは部分補修で周囲と同じ色味や光沢に揃えるのが難しく、再仕上げでは全面やり直しになることが多くなります。
量産品ではこの違いが歩留まりとリワーク費に響きます。
色自由度の高さは魅力ですが、設計・検査・補修まで含めると、処理選定の思想は陽極酸化や透明ラッカー併用とは別物です。
表面処理比較表
眼鏡フレームでよく比較対象になる3系統を、外観・耐食・色安定・補修性の観点で並べると次のようになります。
ここでの評価は公開技術情報と加工実務上の整理に基づく相対比較で、同一試験条件で横並びにした公的比較データは不足しています。
したがって、設計判断では処理単体の印象だけでなく、下地品質と使用部位をセットで見る必要があります。
| 項目 | 陽極酸化 | KTL透明ラッカー併用 | IP/PVD |
|---|---|---|---|
| 外観 | 金属感が強く、干渉色らしい奥行きが出る | 下地の金属感を残しつつ、表面の落ち着きが出る | 色の自由度が高く、黒・金系など意匠表現の幅が広い |
| 耐食 | チタン母材の耐食性を活かしやすい | 下地保護層が加わり、汗や皮脂接触後の外観維持に有利 | 被膜が健全なら良好だが、欠陥部があると局所不良が出やすい |
| 色安定 | 前処理と電圧・時間管理が揃えば安定するが、色むらは出やすい | アノダイズ色の保護に寄与し、指紋跡や見え方の揺れを抑えやすい | 成膜条件と治具条件の影響を受けやすく、色むら管理の難度が高い |
| 補修性 | 再処理で整えられる余地がある | 透明層まで含めた再仕上げが必要で、単体処理より手間が増える | 部分補修の馴染みが取りにくく、再仕上げ負荷が重い |
この比較で見えてくるのは、陽極酸化は基本技術、KTL透明ラッカー併用は保護設計、IP/PVDは意匠自由度重視という役割分担です。
汗環境、皮脂付着、店頭展示、補修対応まで含めて整理すると、どれが上位互換という関係ではありません。
眼鏡では見た目の色と耐食性が同じ意味を持たず、どの不具合を先に潰したいかで最適解が変わります。
品質管理で見るべきポイント

溶接部・接合部の外観/寸法検査
接合部の品質管理では、まず溶接部外観の判定基準を写真付きで固めることが実務の出発点になります。
見る項目は、ビード幅、入熱痕、焼け色、クラックの有無です。
これに加えて、接合後の寸法安定性まで同じシートで管理すると、外観合格でも後工程で狂う案件を早い段階で止められます。
眼鏡フレームではブリッジやヒンジ周辺のわずかな反りが開閉感や装着感に波及するため、外観検査と寸法検査を別物として切り離さない運用が効きます。
熱影響を受けた部位は、色差と反りが同時に出ることが多いです。
前述の接合技術の整理ともつながりますが、JSTの『眼鏡フレームの新しい溶接技術』で示された熱影響部の低減は、見た目の焼けだけでなく、後工程での色合わせや形状戻しの負荷を減らす方向に働きます。
現場では、熱が局所に収まるほど、溶接部近傍の色のにじみと微小な反りの相関が読み取りやすくなります。
検査基準も作り込みやすく、良否判定が担当者の勘に寄りにくくなります。
寸法面では、接合治具から外した直後の状態だけでなく、研磨後、表面処理後まで見越した基準寸法を持つと歩留まりが安定します。
とくに細身フロントや薄肉テンプルでは、接合時点では許容内でも、後工程のわずかな応力解放で左右差が出ることがあります。
工程内検査票には、接合部の中心ズレ、平面度、左右対称性を入れておくと、再発傾向が追いやすくなります。
ヒンジ精度・ねじ部の機能検査
ヒンジ部は、外観より先に機能の規格を置くべき箇所です。
穴位置精度、開閉トルク、開閉時のガタを、社内で許容レンジとして数値化しておくと、組立後の感触差を減らせます。
ここを「問題があれば調整する」運用にしてしまうと、最終組立での手直し量が増え、片側だけ渋い、左右で戻り感が違うといった不具合が残りやすくなります。
出荷前の最終全数検査では、テンプル開閉の片側だけ戻りが鈍い個体が一定割合で見つかります。
現場で追い込んでいくと、局所的なろう付熱影響でヒンジ周辺の状態が揃っていないケースと、ヒンジ面の粗さムラで摺動抵抗が左右非対称になっているケースが多く見られます。
見た目では分かりにくくても、開閉を繰り返したときの戻り速度や途中の引っ掛かりで差が出ます。
この種の不具合は最終検査で感覚的に拾うだけでは足りず、前工程の穴位置、平行度、面粗さの管理に戻して対策するのが定石です。
ねじ部も同様で、ねじ山潰れ、タップ穴のバリ、締結時の噛み込みを独立項目として明記しておく必要があります。
眼鏡で使う微小ねじは公差の余裕が小さいため、わずかなバリでも締結感が変わります。
YAMAWAの技術資料で示されているように、M1×0.25では下穴径0.77 mmが標準的な目安になります。
加工条件の話は前工程に属しますが、検査側でも「ねじが入るか」だけで終えず、規定トルク域での締結感、繰り返し脱着後の山傷み、頭部座面の当たり方まで見ておくと、店頭不良を減らせます。
💡 Tip
ヒンジの機能検査は、単体部品の状態とフレーム組立後の状態を分けて記録すると原因切り分けが進みます。単体で良好でも組立後に渋くなる場合は、接合熱や芯ズレの影響が疑いやすくなります。
色調ばらつき・表面欠陥の評価
外観検査では、色調ばらつきと表面欠陥を同じ帳票で扱いつつ、判定条件は分けて定義するのが基本です。
色調は目視だけでは担当者差が出やすいため、ΔEの社内基準化が有効です。
高品位外観ではΔE00を1〜2の範囲で管理する運用が多く、陽極酸化品ではこの基準がそのまま膜厚管理の精度要求につながります。
チタンの陽極酸化は被膜厚が約10〜300 nmの範囲で色が変わるため、どの仕上げ色を選ぶかで検査難度も変わります。
中間色や干渉色の強い仕様ほど、前処理の研磨目や通電条件のばらつきが色差として出やすくなります。
量産現場では、陽極酸化の膜厚を狭い範囲で揃えないと、同じロットでも正面視と斜視で色の印象が揺れます。
分光測色の値と、規定照明下での目視判定を組み合わせる運用が必要です。
照明条件も固定しなければ意味がなく、白色光源の種類、照度、観察角度、観察距離まで決めておくと判定が安定します。
目視検査では「どこで見ても同じに見えるか」ではなく、「正面見付け面と側面で許容できる差か」を見ます。
眼鏡は装着時の見え面が限られるため、全面同一色を追うより、見える面の優先順位を仕様に落とした方が実務に合います。
表面欠陥では、擦り傷、打痕、ピンホール、研磨残りを、面の部位ごとにランク分けして判定します。
フロント正面、ブリッジ上面、テンプル外側は意匠面として厳しく、内側や隠れ面は別基準にする設計が一般的です。
表面傷は光源条件で見え方が変わるため、検査照明を規定しない運用では、合格品の印象がロットごとにぶれます。
IPや塗装系では被膜欠陥、陽極酸化では色むら、透明ラッカー併用では異物抱き込みというように、処理ごとに欠陥の出方が違うので、検査票も処理別に分けた方が不良の傾向が読み取れます。
汗・湿気環境での耐食性確認

眼鏡の耐食評価は、単純な金属腐食の有無だけでなく、汗と湿気で外観がどう崩れるかを見る必要があります。
実務では人工汗試験と塩水噴霧試験の両方を合意し、母材、接合部、表面処理部を分けて評価すると整理しやすくなります。
人工汗試験は、耳掛け部や鼻周辺のように皮脂と汗が集中する箇所の変色、剥離、局所腐食を見るのに向いています。
塩水噴霧試験は、被膜欠陥や端部処理の弱さを早く炙り出す用途に向きます。
ISO 9227系の中性塩水噴霧では5%の塩化ナトリウム溶液が基本条件として使われます。
人工汗側では、眼鏡向けの事例として55±5℃で24時間保持する手順が公開されています。
ここで大事なのは試験の長さを競うことではなく、どの部位にどんな外観変化が出たら不合格にするかを先に決めることです。
チタン母材そのものは耐食性が高くても、接合部の熱影響、コーティング端部、異材接触部では先に見た目が崩れることがあります。
調達先との合意では、赤錆の有無だけでなく、白濁、変色、膜浮き、接触部の色抜けまで判定項目に入れておくとトラブルが減ります。
Ti-Ni系形状記憶合金を使う場合は、耐食評価に加えて使用環境温度の妥当性も見ておきたい判断材料になります。
眼鏡部材として示されている使用温度域は−40℃〜50℃で、通常使用の範囲はこの中に収まります。
検査側では、この温度域を前提に、汗試験や温湿度暴露後に超弾性部の戻り方が変わっていないかを見ます。
母材の腐食だけ見て合格にすると、機能部材としての評価が抜け落ちます。
材料表示とアレルギー配慮の明記
品質管理の帳票で抜けやすいのが、材料表示と化学成分の扱いです。
図面と仕様書には、純チタン、βチタン、Ti-Ni系形状記憶合金、Ti-6Al-4Vのどれをどの部位に使うかを部位別に明記し、皮膚接触部の材質はさらに明確にしておく必要があります。
とくにTi-Ni系はNiを含むため、使用部位、表面処理の有無、コーティングで皮膚から隔てる設計かどうかを書き分けるべきです。
ここが曖昧だと、営業資料では「チタンフレーム」と表現されていても、実際の肌接触部材との整合が取れなくなります。
化学成分の管理では、JIS材の規格名だけで終えず、材料証明と図面表記をつなげる運用が必要です。
板材なら『JIS H 4600』、棒材なら『JIS H 4650』に沿って受け入れを整理し、部位ごとに必要な材質証明を紐づけます。
アレルギー配慮の観点では、Niの有無だけでなく、皮膚接触部にNiTiが露出しているのか、被膜で覆っているのか、別材のカバーを介しているのかが重要になります。
RoHSではNi自体は規制10物質に入っていませんが、眼鏡では法規対応と肌配慮は別の整理が必要です。
意匠仕様と材料表示のつながりも見逃せません。
陽極酸化を採る場合は、被膜厚レンジが10〜300 nmのどこに入る設計かを、色名だけでなく処理条件の管理項目として残しておくと、再製作時の再現性が上がります。
KTLやIPを上に重ねる構成なら、下地材、下地処理、上塗り有無まで一連で書くべきです。
品質保証の立場では、「チタン製」という大きな括りより、皮膚接触部の材質、接合部の材質差、表面処理構成の3点が読み取れる仕様書の方が、不具合時の切り分けに直結します。
設計・調達判断のチェックリスト

部位別材料表
設計と調達を同時に前へ進めるには、部位ごとに「何を優先し、何を捨てるか」を先に固定しておく必要があります。
眼鏡フレームは全体をチタンでまとめても、フロント、テンプル、ヒンジ周辺で求める特性が違います。
そこで実務では、軽さ、弾性、接合性、表面処理適性の4軸で部位別に優先順位を付け、そのうえで素材候補を絞る整理が有効です。
| 部位 | 軽さ | 弾性 | 接合性 | 表面処理適性 | 優先材料 | 候補材料 | 設計自由度 | 加工難易度 | コスト増要因 | 概算コスト目安(相対評価) |
|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
| フロント | 高 | 中 | 高 | 高 | 純チタン | Ti-6Al-4V | 絞りや曲げを含む標準設計に向く | 中 | 細線化、色管理、接合後仕上げ | 中 |
| ブリッジ | 高 | 中 | 高 | 高 | 純チタン | Ti-6Al-4V | 形状安定と意匠の両立が取りやすい | 中 | 曲げ精度、ろう付後の修正 | 中 |
| テンプル | 高 | 最優先 | 中 | 高 | β型チタン合金 | Ti-Ni系形状記憶合金 | 薄肉化、しなり設計の自由度が高い | 中〜高 | 戻り管理、熱履歴管理、曲げ治具精度 | 中〜高 |
| クリングス | 中 | 中 | 最優先 | 中 | 純チタン | β型チタン合金 | 線材成形中心で設計の定石が多い | 中 | 細径部の位置決め、接合歩留まり | 中 |
| ヒンジ周辺 | 中 | 中 | 最優先 | 中 | 純チタン | Ti-6Al-4V | 肉厚と断面の調整余地はあるが接合前提で考える | 高 | 穴加工、切削、局所高強度材の段取り増 | 高 |
| モダン芯・特殊弾性部 | 中 | 高 | 低〜中 | 中 | Ti-Ni系形状記憶合金 | β型チタン合金 | 機能優先の専用設計になる | 高 | 熱処理管理、異材接合、表面被覆配慮 | 高 |
ℹ️ Note
「概算コスト目安」は相対評価(低 / 中 / 高)であり、実際の発注見積りでは部品形状、ロット、処理仕様によって大きく変動する。可能ならば主要サプライヤーの見積りや社内調達実績を基に金額レンジを埋めることを推奨する。
フロントは純チタン優先で組むのが基準です。
軽さと耐食性に加えて、接合と表面処理の実績が厚く、量産時の再現性が高いからです。
薄く見せたい、高応力の局所がある、エッジを立てたいといった意図が明確なときにTi-6Al-4Vを候補に入れます。
ただしこの材は高強度の見返りとして加工負荷が上がります。
耐力828 MPa級が本当に必要な部位かを先に見切らないと、材料費より加工費と調整工数が先に膨らみます。
テンプルはβ型チタン合金を軸に考えると整理しやすくなります。
掛け外しの繰り返しで必要なのは、単純な高強度よりもしなりと復元力だからです。
スポーツ寄りや大きな変形回復を狙う構成ではTi-Ni系形状記憶合金が入ってきますが、Niを含むため、露出部位なのか被覆前提なのかを仕様に明記しないと、材料選定と肌配慮の話が食い違います。
接合・表面処理の先決とリスク見積り
材料を決めた後ではなく、その前に接合方法と表面処理の組み合わせを仮決めしておくと、後戻りが減ります。
眼鏡フレームでは、接合の熱履歴が意匠と寸法に直結するためです。
抵抗ろう付を選ぶのか、レーザー微細溶接を選ぶのかで、母材の選び方まで変わります。
抵抗ろう付は、生産現場での扱いに慣れた工程として残る一方、熱の回り方が広く、細線部や意匠面では後修正の負担が出やすい工法です。
接合部の一体感よりも、既存設備との親和性やコストバランスを取りたい案件で効きます。
対してレーザー微細溶接は、局所加熱で線材や薄肉部の変形を抑えたい場面で優位です。
JST 眼鏡フレームの新しい溶接技術で示された工程数約4割削減、熱影響部約88%低減という差は、単なる研究値ではなく、後工程の研磨、修正、再表面処理まで含めた量産設計の判断材料になります。
ここで見るべきトレードオフは、量産性と意匠性です。
抵抗ろう付は工程の組み立てが読みやすい反面、熱影響で線の通りが乱れたときの補正に手間がかかります。
レーザー微細溶接は治具精度と位置決め精度を要求しますが、細線リムやシャープなブリッジでは、接合後の見え面を整えやすくなります。
現場では、細線リムの高意匠モデルになるほど、レーザー微細溶接とアノダイズ後のKTL透明ラッカーを組み合わせ、線のヨレと色戻りを同時に抑える流れが、設計と生産の協議で落ち着きやすい定番解になっています。
熱を絞って母材の姿勢を崩さず、そのうえで発色面を透明保護層で守ると、量産での歩留まりが安定するからです。
Titanium eyewear finishing exampleの事例紹介では、アノダイズ+焼付け条件は処方や装置に依存します。
記事中で「20分焼付け」などの具体値を示す場合は、該当の一次出典(処理業者の仕様書や事例ページのURL)を注記するか、「事例によっては約20分と報告されている」など事例ベースであることを明示してください。
表面処理は、色を出す工程なのか、色を守る工程なのかを分けて考えると迷いが減ります。
陽極酸化はチタンの金属感を残したまま発色できる基本技術で、色味設計の中心になります。
酸化被膜厚さの制御で色が決まるため、意匠面の質感を活かしたいフレームに向きます。
そこへ透明保護層を足すならKTL透明ラッカー、色の自由度を優先するならIP系の構成が比較対象になります。
Titanium eyewear finishing exampleの事例紹介では、アノダイズ+ここでも焼付け条件は処方依存です。
記事中に「20分焼付け」といった具体値を繰り返し使う場合は、該当の一次出典(FavrSpecs 等の具体URL)を注記するか、「事例によっては約20分と報告されている」と明示して、一般値でないことを読者に示してください。
IPは着色自由度が広く、人工汗環境で下地を守る保護層としても設計しやすい反面、密着は前処理の出来に強く引っ張られます。
汗が集中する耳周りや鼻周辺では、人工汗試験を前提に、端部の被膜状態まで見込んだ構成にしないと、見え面より先にエッジ部が崩れます。
金属感を前面に出すなら陽極酸化主体、発色維持と手触り保護まで欲しいならKTL併用、ブランドカラーの再現を優先するならIP主体、という切り分けが実務的です。
💡 Tip
高強度材を選ぶか、保護層を足すか、工程を短く保つかは別々の判断に見えて、実際は同じ帳尻に乗ります。高強度が不要な部位でTi-6Al-4Vを使うと加工負荷が増え、KTL追加で色安定を取ると焼付け工程が増え、接合を抵抗ろう付に寄せると後修正が増えます。どこで工数を使う設計なのかを一枚で見える化しておくと、調達側との認識差が出ません。
調達仕様書テンプレ要点

調達仕様書は、材質名だけを書いた文書では足りません。
部位別材料、接合方法、表面処理、検査記録、最終判定までを一つの流れでつなぐ必要があります。
眼鏡フレームでは、同じ「チタン製」という表現でも、純チタンのJIS 1種・2種、β型チタン合金、Ti-6Al-4V、Ti-Ni系で要求管理がまったく変わるからです。
まず材料欄では、板材か棒材かを分け、純チタンなら『JIS H 4600:2012』に沿う板・条の規格区分、棒材なら『JIS H 4650:2016』に沿う区分で整理します。
純チタンは1種・2種のどちらか、合金材はβ型かTi-6Al-4Vかを部位別に明記し、ミルシートまたは同等の材料証明で化学成分と材質区分が追える状態にしておく必要があります。
Ti-6Al-4Vを使うなら、高強度要求部としての採用理由まで図面注記に入っている方が、代替提案の暴走を防げます。
化学成分と法規欄では、RoHS適合の扱いと、ニッケル溶出への配慮を分けて書くのが筋です。
RoHSは10物質管理であり、Niそのものは対象外ですが、眼鏡では肌接触があるため、法規適合だけでは整理が終わりません。
Ti-Ni系を使う部位では、露出の有無、被覆の有無、最終表面処理の構成まで仕様書に落としておかないと、営業表示と実体がずれます。
必要書類としては、材料証明、化学成分表、RoHS関連書類、必要に応じたニッケル溶出配慮の記述が最低限の束になります。
工程内検査の欄では、接合、表面、寸法の3系列を分けて記録項目を置くと、問題発生時の切り分けが早くなります。
接合は外観、位置ずれ、熱影響痕、必要なら引張または曲げによる確認。
表面は陽極酸化の色調管理、KTLやIPの外観欠陥、異物、色むら。
寸法は見え面の線通り、ヒンジ位置、左右差、可動部の組付け状態です。
最終検査成績書には、部位別材質、接合方法、表面処理仕様、主要寸法、外観判定の結果がそろっていないと、量産切替後の追跡が難しくなります。
実務で使うテンプレの要点は、次の5項目に集約できます。
- 部位別材質の明記
フロントは純チタン、テンプルはβ型、ヒンジ周辺は純チタンまたはTi-6Al-4V候補というように、部位単位で分けて書きます。
- 接合方法の指定
抵抗ろう付かレーザー微細溶接かを図面と仕様書で一致させ、外観優先部は工法変更不可の扱いにします。
- 表面処理の層構成
陽極酸化単独、陽極酸化+KTL透明ラッカー、IP主体のいずれかを明記し、人工汗環境で重点評価する面も定義します。
- 品質確認書類の束ね方
材料証明、化学成分、RoHS関連書類、工程内検査記録、最終検査成績書をロット単位で追える形にします。
- 定量判断の境界条件
高応力部で耐力828 MPa級が必要か、KTLの20分焼付け追加を許容するか、工程全体への影響を飲めるかを仕様段階で固定します。
この定量判断の境界条件を先に決めておくと、見積りのブレが小さくなります。
高強度要求部でないのにTi-6Al-4Vを選ぶと、加工難易度だけが上がります。
色安定性の要求が高くないのにKTL焼付けを足すと、追加工程だけが残ります。
接合部の見え方を追い込む必要がないのにレーザー微細溶接を指定すると、治具要求だけが上がります。
逆に、細線高意匠モデルで線の通りと色の安定を優先するなら、その組み合わせにコストを振る意味が出ます。
仕様書は単なる発注書ではなく、どこに工数を載せる製品なのかを示す設計文書として扱う方が、量産立ち上がりでの齟齬が減ります。
まとめ

眼鏡フレームの設計は、軽さだけで決まりません。
弾性は素材で、接合は工程で、表面処理は意匠と耐食で、品質管理は検査基準で効いてきます。
この4点を別々に選ぶのではなく、一つの製品仕様として先に束ねた案件ほど、量産で外観と歩留まりがそろいます。
実務では、純チタン、β型チタン、Ti-Ni系、Ti-6Al-4Vを「どの部位に、どの機能を持たせるか」で切り分け、接合方法と表面処理を先に固定してから材料を逆算すると、設計判断がぶれません。
高意匠の細線モデルでも、レーザー微細溶接と前処理管理を軸に組むと、研磨や再色調整の手戻りが減り、立ち上げまでの回転が整う場面が多いです。
「全部チタン」で終わらせず、材料特性と工程条件を同じ図面の上で結び直すことが、安定した製品づくりへの近道です。
精密金属加工メーカーで15年のチタン加工経験を持つ。切削・研削・プレス・溶接と幅広い加工方法に精通し、特に難削材の切削条件最適化を得意とする。
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